Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

仲達

「仲達」塚本史。

淡々とした筆致でとんでもない小説を書く塚本氏の手になる三国史もの。
タイトル通り、司馬懿の話なので、曹操死後を描く。

孔明が南蛮退治を執拗に行ったのは、現代の「黄金の三角地帯」すなわちラオス国境あたりの麻薬が目的だった、というのが本書の最大の仮説である。
もともと、傷病兵の治療に使用していたとする。これ自体は、現代でもモルヒネが使われているから、そう突飛ではない。
そして、その麻薬の調剤法は、曹操に殺された名医華佗が持っており、これを継いだ弟子たちが蜀に持ち込んだことになっている。
曹操のあとを継いだ曹丕も一服盛られて早死。
孫権もヤク注になって、乱心するようになる、ということで、たしかに史実を説明できる。

五丈原の戦いでは、毎日斥候に、孔明の本営の近くを探らせる。
孔明は末期がんで、鎮痛のために麻薬を焚くので、その匂いが流れ出るわけである。
ある日、その匂いがしなくなった。それで、仲達は孔明が死んだのを知る、というわけである。
その上で、蜀軍が襲ってくると、兵をまとめて撤退する。
孔明死す」で突撃すると、蜀軍の罠にかかるであろうことを看破していたためである。
仲達は言う。
「兵力が数分の一の蜀が、我が国まで遠征してきて、どうして五丈原で籠城のような策をとるのか?それは、兵が少ないので、百に一つの勝ちを収めるには、当方に攻めさせるほか、ないからである」
「普通は、他国に攻め込んで、わざわざ籠城などしないものだ。攻める。攻める兵力がないのだ」
そして、世間はこれを「死せる孔明、生ける仲達を走らす」とあざけった。
悔しがる側近に、仲達は「孫子」の一節をひいて、こう諭す。
孫子いわく、善く戦ふものの勝や、智名なく勇功なし、とある。派手な勝利というのは、それだけ危うかったということである。本当に強いものは、そんな戦いはしないものだ」
この「徹底的に実をとる」司馬懿の姿勢は、やがて、息子や孫の世代にひきつがれ、ついに晋建国に至る、というわけである。

評価は☆。
歴史上「こうであったから」と、後知恵で説明するのは何とでもなるのだが、それと事実は異なる。それゆえに、小説なのである。
であるから、麻薬を小道具にして曹操死後を描く小説として、アイディアは優れている、と思う。

いささか、主人公が淡々としすぎているのだが、もともと、そういう地味な性格だから勝ちを収める人なのだ、という設定である。
こういう描き方で、良いのだと思う。

ただし、そういう内容なので、大いに世の中を動かしてやろうという若者向けの内容ではなくて、くたびれた私のような初老に向いているような気がするな(苦笑)。
若いうちに読んだら、きっと反発を感じただろう。

ちょっと前の円高、今の円安でもそうである。
儲かっているところは、黙っている。損したところは「たいへんだ、なんとかしてくれ」と政府に泣きつくのである。
儲かっているところは「善く戦ふものの勝や、智名なく勇功なし」だ。静かにしておくのである。

儲かってない私は、、、きゃんきゃん言うだけの元気もありませんので、やはり、静かにしております。声も出ません(苦笑)