Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

二流小説家

「二流小説家」デヴィッド・ゴードン。

「このミス」とか「ミステリが読みたい」とかの賞を総ナメにし、映画化までされた(らしい、例によって映画は見ないから)作品である。

主人公のハリーは二流小説家だ。いくつかのペンネームを使いわけて、読み捨てにされる三文小説を量産している。ポルノ、ヴァンパイアもの、SFなど。
ようやく生計を立てている、という具合だ。
そのハリーに、思わぬところから転機が訪れる。
連続殺人で死刑まじかの死刑囚からファンレターが届き、彼の告白を小説化する権利を与える、というのである。
この殺人鬼は、刑は確定しているものの、自白はしておらず、被害者の遺体も行方不明のものがある。
出版されれば、大ヒットは間違いない。テレビ化、映画化も含めて、大富豪になるチャンスでもある。
ハリーは、慌ててインタビューをしに、刑務所に出向くのである。
そうすると、死刑囚から、実に奇妙な交換条件を付けられる。
この死刑囚には、彼のファンだというイカレタ女性たちから、ファンレターがたくさん届くのだ。「結婚してくれ」だの、ひどいのは「殺してくれだの(苦笑)。
で、実際に死刑囚のメッセンジャーとして彼女たちに会って、彼女ら一人一人を登場人物にしたポルノを書いてくれ、というのである。
彼は、獄の中にいるので、それしか楽しみがないのだ、というのだ。

ばかばかしいと考えたハリーだが、自称マネジャーの女子高校生クレアは、千載一遇のチャンスなのだから、とにかくやれ、と発破をかける。
仕方なく、ハリーはこの作品の取材に取り掛かる。
実際に会った女性たちは、想像以上にイカレテおり、色情狂まがいの人までいた。ハリーはげんなりするが、そこで大事件が起こる。
彼が取材した女性たちが、連続殺人の被害者になったのである。
しかも、その手口は、なんと収監中の死刑囚と同じ、死体をバラバラにしてアート作品に見立てる、という手法だった。
ハリーは当初、事件の犯人と疑われたが、その疑いは晴れることになる。
彼自身も襲われ、あわやの事態になった上に、新たな被害者まで出たからである。
そうなると、今度は、収監中の死刑囚は、ほんとうに一連の事件の犯人だったのか?という疑いが出てきた。
真犯人は別におり、いまだに活動しているのではないか?ということだ。
死刑囚は、単なる誇大妄想狂で、自分が殺人をしたと主張しているだけなのではないか?
彼の死刑執行は、こうして延期され、再審請求が行われた。

やがてハリーの身辺にも、魔の手が伸びる。
一連の成り行きを考え直したハリーは、事件の真犯人へとたどり着いた。
そこへ、今度は彼の相棒、女子高生のクレアが危機一髪となって。。。


なかなか、面白い。評価は☆☆。

この小説は、メタ小説である。
小説の中に小説がでてきて、事件は小説に反映していく。
しかし、その「事件」を描いてるのも小説。
その小説がわらっちゃうくらいの「二流」つまり、よくありがちの紋切型というところが、思わずニヤニヤさせられる。
ポルノしかり、SFしかり、ホラー(ヴァンパイア)しかり。ハードボイルドもミステリも、「こうでしょ?」とやる。
そう、この本はそういう「二流小説」を愛読してきた人たちに「ほれほれ、こうするとええんやろ?」とスケベオヤジがいじくるようなものなのである。

この本を読んで「つまらなかった」という人は、安心して良い。そういう人は、まだたくさんの二流小説を読んでいないのだ。
人生の無駄遣いをしてきた人間だけが、楽しめるようになっている。

そんなすれっからしどもが選んだ「このミス」受賞作なわけなので、壮大な二流小説の楽屋オチ小説なのだ。
ギョーカイ関係者に評価が高く(あるいは、すれっからしどもに)普通の読書家にはつまらないと言わせる作品である。
いいじゃないか。

どうせ、出版業界は右肩下がり、出口の見えない不況まっさかさまなのだ。
いまさら、万人に媚を売ったところで仕方がない。

今のテレビを見よ。見よといっても、誰も見ない。なぜかというと、視聴率が上がるように作品を作るからである。
つまり、万人に受けようとするわけだ。
しかし、残念ながら、そうすると、どんどんつまらないものが出来上がってしまう。
だから視聴率が落ちる。落ちると、慌てて、もっと万人に受けようとする。すると、ますます、落ちる。

もう諦めたほうが良いのである。
そうすれば、また浮かぶ瀬もあるかもしれないからだ。
苦労して、初判一万部かかればよいほう。それで、はい絶版。
印税が一冊80円で、80万円。半年に1回、なんとか上梓して年収160万。結果、食えない作家先生は、山といる。
紋切型のポルノやミステリ、ホラーを量産できなければ、もう生きてはいけない。

これ、実は壮大なルサンチマン小説ではないか?と思うのだがなあ。