Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

格差社会で金持ちこそが滅びる

格差社会で金持ちこそが滅びる」ルディー和子。

日本に「ダイレクトマーケティング」という概念を持ち込んだのは、この本の著者である。
それまで、日本にはダイレクトマーケティングはなかった。
雑誌で怪しげなアイデア商品の通信販売が行われているのが関の山だったのである。(その名残りか、今でも雑誌の通信販売はアヤシイ?)
今では盛んなEコマースも、いわばダイレクトマーケティングの一派生分野であろう。
もちろん、テレマーケティングもしかり、テレビショッピングもしかり、カタログ通販もしかり。
私なんぞ、ルディー和子氏のおかげで、飯が食えているといっても過言ではない。
その先生の本である。

タイトルは逆説的であるが、本書自体が逆説のオンパレードであり、我々にありがちな固定観念を打破するものである。
まず、日本の「終身雇用制」であるが、これなど、日本的経営の神髄のように称揚されたものだ。
しかし、実は調べてみると、せいぜい70年代に従業員1000人以上の製造業に限って導入された制度であり、当時の労働者人口にしてわずか8%に過ぎない。
これが「日本的経営」なのであろうか?
言うまでもないが、この制度は、戦後の経済復興から高度成長に至る過程の中で、労働者の調達が厳しくなったことがあり、その対策として長期雇用確保の目的で導入されたわけだ。
バブル崩壊で人手が余れば、存在意義がなくなったのは当然である。
「小泉、竹中が」という人は、事実を直視したほうが良い。終身雇用でヌクヌクとやっていけるなら、そのほうが労使ともに幸福だったのである。
しかし、東西の壁が崩壊して、東側が安い生産人口としてどっと流れ込んできたら、もうこの制度では不可能になった。
著者が指摘するように、今やシリコンバレー米企業のほうが、よほど従業員を大切にしている。
それだけ優秀なシステムエンジニアの確保が難しいわけだし、それに答える生産性を上げているからだ(ようは、儲かっている)。
日本企業が終身雇用をやめたのは、儲からなくなったからである。

タイトルの「格差社会で金持ちが滅びる」のは、ありていに言えば嫉妬のためである。
基本的に、誰でもカネが欲しいのである。
そこで、金持ちを羨む、という行動が当然に出てくる。
これを回避するため、多くの民族では「金儲けだけを称揚しない」ということになっている。例外はアメリカである。
格差が拡大すると、金持ちはますます嫉妬されるので、何かと暮らしにくくなる。
そのストレスで、やがて寿命を縮めることになるだろう、というのがオチである。

ちなみに、その「嫉妬」が、実は平等社会の実現に向けての大きな力になっていることも指摘されている。嫉妬=悪い感情とは言えないのである。
その嫉妬感情は、日本人の場合だと、「自分の利益」よりも「他人の利益を減らす」ほうに働く。
自分の利益が増えるなら、他人が何倍儲けてもいいじゃないか、とはならないのだ。
このような日本人の特性を、最後は「不安遺伝子」が他民族に比べて非常に多い、という興味深い説明をつけている。

評価は☆☆である。
我々が持っている固定観念が、いかに表層的な「思いこみ」の産物かを、しみじみと感じさせてくれる好著である。
もっとも、いわゆるマーケティングを業とするマーケッターの方は、そういう評価もしていられないかもしれない。
「だから、どうしろっちゅうねん?」
うーん、まあ、どうともなりまへんなあ、というオチなんであるから。

固定観念を人が持つのは、人間の脳のクセによる。
脳というのは、「因果関係を見いだす」クセを持っている。それが、人類の進歩に役立ってきたので、これは好ましい性質と一般的には考えられている。
よって、何か現象が起こると、人はその原因を探さずにはいられない。
「小泉、竹中が悪いんだ」
もっと万能なのは
ロスチャイルドの陰謀だ」
となるのである(苦笑)。

しかし、「説明がつく」からそれが正しいとは限らない。
実際の世の中の現象は、いろいろな要因が絡んでいて、どちらかといえば「確率論」だったり、その場の「流れ」で(特定勢力なり人物の意向でなく)あったりすることのほうが、多いのである。
最近の科学でみると、量子力学もそうであるし、進化論も自然選択よりは「ゆらぎ」(ただの偶然)のほうが強いのではないか、と分かってきている。
因果関係に思いを巡らすのは人間の思考のクセであるが、現実は、人間の思考通りには進まない。
経済学の予言のはずれっぷりを見れば、明らかであろう。
経済という「人間が作り出した」世界においても、人間の考え通りには物事は運んでくれない。
ましてや、さらに複雑な要素が絡む現実の世界においてをや。

何にもとらわれることのない、中立な目が有れば、それが神の視点にもっとも近いのかもしれないなあ。