「資本主義の終焉と歴史の危機」水野和夫。
2014年にベストセラーになった本であり、トーマス・ピケティの「21世紀の資本論」と並んで話題になった。
私は、特に経済学に関心が深いわけではないので、リアルタイムでは読んでいなかったのだが、いよいよ平成も終わることだし、まあ「宿題」を片付けておくくらいの気で読んでみた。
売れた本だけのことはあり、「わかりやすさ」は群を抜いているように思う。
著者は、まず日本をはじめ、欧米でも中共でも、利子率が低下している点を指摘する。
世界同時ゼロ金利、とでも言いたいような状況である。通貨安合戦である。
著者の指摘は、利子率は長期的には利潤率と同じに収斂するものであり、つまり「世界中で利潤率が下がっている」と判断する。
言うまでもないが、資本主義にとって利潤は「金を動かすエンジン」そのものだから、エンジンが弱っているのである。
その理由は、「周辺」がなくなったからだ、という。
橋本治流にいえば「フロンティア」である。
かつて、欧米はアジアをフロンティアにしたわけだし、ベルリンの壁が崩壊すると旧東世界をフロンティアにした。
いよいよそれが行き詰まると、電子空間を作り出し、そこをフロンティアにした。
なにしろ、実際に利潤率が上がらないのだから、見かけの利潤をふくらませる=バブルしかないわけである。
今後の資本主義は、延命のためにバブルを繰り返すほかない、と著者は言う。
しかし、そんなことがいつまでも続くわけがない。
歴史的にみれば、ゼロ成長の時代は珍しいことではなく、ふたたびゼロ成長時代が訪れる。
そうなると、「成長」を前提とした資本主義では、経済が回らなくなる。
次の経済がどうなるかはわからないが(ポスト資本主義)、なにか別の経済体制が現れるだろう。
日本は、ゼロ成長が長く続いているのだから、その準備をしたほうが良い。。。
議論は説得的で、明快である。
(おそらく、マル経の人は「利子率は利潤率に収斂する」というあたりに同意しないだろうが)
本書の刊行後、5年を経過して、なお世界は低成長を続けている。
あの中共も安定成長路線に切り替える必要に迫られて、今や青息吐息であろう。
米国がシェールガス革命を背景にして、株価が好調であるが、一方で中間層の没落に歯止めがかかりそうにない。
トランプ大統領は力づくで歴史を後戻りさせようとしているが、たぶん無駄だろうと思う。
おそかれ早かれ、米国のバブルは崩壊する運命にあるはずだ。
ババ抜きで、誰が最後にカードを引くか、睨み合っているだけの話であろうと思う。
ただ、そうなれば、いよいよ世界同時不況である。
本書のいうようなポスト資本主義社会を日本が作り出せるかどうか、これはわからない。
今の世の中でいえば、革新よりもマネーゲームのほうが、お金が儲かるという流れがある。
具体的な付加価値を上げるよりも、資本で儲けたほうが手っ取り早く、たくさん儲かるというわけだ。
どうも、このあたりの構造が変わらない限り、資本主義はたしかに終わる気がする。
革新が起こらなくなるからである。
ただ、本当に利子率が下がりきってしまえば、資本自体が儲けられなくなるから、起業家にチャンスが訪れる気もするのである。
どっちに転ぶか、正直なところ、私にはわからない。
ただ、本書の指摘は面白いと思った。
評価は☆☆である。
日本の状況を見ると、革新的な発明とかが出てこない状況が続いているように思う。
今の日本人の性向と、世界が合っていないような気がするのだ。
うまく儲けられる市場をみつけて、いち早く金にするのは、日本人は下手である。なんだかんだいって、農耕民族だから。
ゆっくりと良いものを作るという方法論だと、デジタル化が進んだ世界では通用しない。コピーがオリジナルと同じ性能を持つのがデジタルである。
アナログの世界に戻ることがあれば、日本の強みを発揮できるだろうと思う。
そんな世界があり得るのかどうか。
そこがわからないんですなあ。