Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

数学を使わない数学の講義

「数学を使わない数学の講義」小室直樹

小室直樹氏といえば、そのメディアへの登場当初は、エキセントリックな言動で世間の耳目を集めた人物である。
しかし、なかなかその舌鋒は鋭く、しばしば論敵をやりこめてしまうのでも有名であった。
本書は、そのような小室氏の論理は、どのような背景から生まれてくるかを書いた本である。

そもそも数学は論理であり、計算は「オペレーション」である、と小室氏は説く。
つまり、数学は論理の追求であり「問題を解くこと」ではないのだ、と。
その例として、ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学の違いを説明している。
そういえば、アインシュタイン相対性理論も、非ユークリッド幾何学リーマン空間)を利用して証明しているが、彼も計算は苦手だったらしい。

なかなか刺激的なタイトルが並んでおり
「論理発想の基本(解の存在問題)」
「数学的思考とは何か(日本人には論理がない)」
「法の精神と数学」
「人間の精神活動と数学(宗教・イデオロギー)」
「科学における仮定の意味」
等々。。。

「あ、なるほど!」と思わされる指摘が多く、非常に面白い。
たとえば、「法の精神」では、近代法の基本が市民法民法であることを指摘する。
そこから、全体対部分の法の考察に入っていくわけだが、このくだりは法史学の講義を思い出しても見事に合致する。論理というものの有効性を見せつけられる思いがして圧巻だ。

私は、ロゴスの徒でありたいと、常に思っている。私の立ち位置が、たとえば「保守」だと思われるだろう、ということくらいは承知しているが、私自身のロゴスに従うほかに、私の位置はない。
そういうロゴスの「おもしろさ」を伝えてくれる一つの書物として、大変良いと思う。

評価は☆☆である。
三つ星にしなかったのは、著者の日本人批判が厳しすぎると感じた部分があるためである。
すべての日本人に、論理性がないわけではあるまい。
「部分と全体を混同する誤謬」に、筆者自身が陥っている可能性を感じて、1つだけ減点してしまった。
それでも、刺激的な楽しい本にはちがいない。

自虐史観の方が公開しているホームページには、抱腹絶倒な国際法解釈が散見される。おそらく、最近の歴史見直し派が、その根拠として国際法によることが多いために、対抗しているのだろうが、牽強付会と誤解に凝り固まっているので、見ていておかしいやらあきれるやら。
本当は、そういう方にこそ、読んで欲しい指摘がたくさんある。実に鋭いのだ。でも、たぶん、ゼッタイそういう人たちは、この本を読まないだろうなぁ、と思うんである)