Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

放置される森林の問題

私の祖父は、復員後は小さな畑と田んぼをつくりつつ、炭焼きと林業をして生計を立てていた。
主に、現金収入は米と炭の出荷によった。中国山地の寒村のことである。

林業の場合、自分が植えた木を自分が出荷して収入にできるケースはほとんどない。当然だが、伐採にも費用がかかる。充分にこれを回収して利益がでるようになるには、長い生育年数が必要だ。林業の場合、植林は子孫のために行うものである。
かつて、材木の相場はそれなりによかった。祖父は、山林の権利を少しづつ手に入れては、植林を行っていった。主に植えたのは生育が早い杉で、苗木が高く、出荷価格も高く、生育に時間のかかる檜が若干である。他家の樹種も、ほぼ同じ構成だったようである。
山間の寒村は貧しい。だから、村人は、山中深くまで分け入って、杉を植えたのである。山は見事に杉が並び「美林」と呼ばれた。
そして、森林はどうなったか?

我が家では、父母は年老いた。私は、在りし日の祖父に連れられて、山林を歩いたが、とても覚えられるものではない。一度や二度、人に連れられて行ったところで、山道は覚えられない。
しかも私は東京ではたらき、弟は学校教員となった。誰も、山をみるものはいない。
お恥ずかしい話だ。しかし、当家だけでなく、ほとんどの村人が現金収入を求めて市内に働きに行く。山を手入れするのはごく一部の人だけになった。
人を雇って山林の手入れをしても、現在では採算が合う見込みがない。

放置された人工林がいったいどうなるか?
それは、すでに山林ではない。人はもちろん、生き物が住めない薄暗い闇にしかすぎぬ。
食を失った熊や鹿、猪が、山里まで降りてくるようになり、彼らは猟友会によって駆除される対象となった。

冬、雪が降れば木は倒れる。起こしてやらねば、曲がった材になる。買い手はなくなる。この作業は重労働である。
針葉樹は落葉しない。下枝打ちをしてやらないと、土まで日が届かず、落ち葉もなく、土はやせていく。
密度が濃くなれば間伐して風通しをよくする。こうして、風と日光を森に通してやる。そうすると、日の光が当たって低木や下草が生える。この下草を刈ってやり、土に返し、土が呼吸をして保たれる。
手入れをせねば、下枝はぶらさがり、日の当たらぬ薄暗い、しいんとした空間がつづくだけになる。
そのうち日照不足に強い植物が根付くと、他に競合がないから、やたら繁殖して藪ができる。もちろん、日光が差さないから、これらが枯れて、バクテリアで土に帰るサイクルが進まなくなる。藪はますます深くなり、果実植物はできず、ただ土が痩せていくばかりだ。動物も住めない。
人工林を放置すれば、廃墟のごとき山ができるだけである。自然林に戻るわけではない。

「環境のために割り箸を使うのをやめましょう」
海外の後進国発展途上国という言葉は欺瞞だと思ってやめることにした)から、安く伐採された木が割り箸に使われるなら、確かにそうである。しかし、国内の間伐材の主な用途は割り箸であった。誰もが割り箸を使わなくなったら、収入の途絶えた林業家は、どうして山の手入れをするのか。間伐材が売れねば、木が生育するまでの間、誰がどうして山をみるのか?
国産材の間伐材で作られた割り箸は、小さく「間伐材を使用しています」と表示があり、木の色が濃く、値段がほんのちょっぴり高い。私は、来客用の割り箸は、必ずこれを買う。

ついに、私の故郷の村にも、地滑りが頻発するようになった。人の手入れがなくなった人工林は、最後には保水力を失う。たまに大雨が降ると、表土ごと滑落する。土がやせ、根はもう支えることができない。
一度、表土が失われると、茶色の山肌がいつまでも見える。表土がなくては、植物は生えることができない。100年経っても、表土は数ミリしか生成されないのである。雨が降るたびに、地滑りの範囲が拡大していくので、天候が悪いときは慣れた山人でも山に入れなくなった。山の断末魔のようだ。

朝鮮半島の山は、今でも木が少なく、しばしば大水害を起こす。元寇のとき、国中の木を切り倒して、その後李朝は何もせず、ただ放置した。彼らは治山治水の概念を知らなかった。
日本人は「治山治水」とセットにするのは、治山をしなければ治水もならぬことを知っていたからであった。

今、日本の山林は死に瀕しているように思われる。
山林に巨費が投じられるのは、そこにブルドーザーを入れてハイウェイを通すときか、ダムを建設するときだけではないか。山林がしっかりしていれば、鉄砲水はおきないものだ。(緑のダムと呼ばれる)
このまま山林を放置すれば、伐採の経済などを超えた自然災害が発生することは分かっている。

私も、山を放置した犯人の一人である。他人様のことをあげつらって言える立場ではない。
どうすればいいのか、正直わからないのだ。
ただ、この結果がおそろしい。