Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

国家の自縛

「国家の自縛」佐藤 優。

あの「国家の罠」で、国策捜査の実体を赤裸々につづった佐藤優氏の対談をまとめた書である。前の著作もそうだったが、「なんと惜しい才能を、外務省は失ったものか」というのが率直な感想である。
たぐいまれな分析力、知力をひしひしと感じる。

たとえば、現在多くの日本人が危惧しているだろう特定アジア諸国との問題に関して、佐藤氏はこういう。「冷静に、議論をすることだ。相手と同じレベルでは、世界はただ単に一局地の諍いとしかみない。しかし、冷静に理を説けば、横暴なのは相手国になる。世界を味方につけること、そのために冷静さを失わないことだ」と指摘する。誠にその通りだろうと思う。靖国参拝については、政争の対象にすること自体がおかしい(内外どちらも)というスタンスである。

また、ネオコンについての日本国内の議論は「全く米国のネオコンの実体を知らずして観念論だけで批判している、学生なみ」と手厳しい。米国ネオコン達は、実は「元左翼」「知識階級」が非常に多い。彼らの主張の根源は何か?私は「リバタリアニズム」を突き詰めた場合「アナキズム」になるはずだと思ったが、やはり米国ネオコンは「リバタリアニスト」であって、アナキストもどきが多いようだ。アナキストは、個人の自由が国家に優先するものである。つまり、米国ネオコンが真意は「米国の国益」にはない。そこを読み違えると、大変な間違いをする危険があると指摘する。

私は、対米追従外交は、日本の現状にとって仕方がないと考えてきたが、本書の影響などもあり、やや最近になって考え方を変える必要を感じた。というのも、中国の台湾侵攻の脅威は冗談ではなく存在するということであり、そうなればカギを握るのはロシアとモンゴルだからだ。
これは地政学上で考えると必然だろうと思うのだが、もしも中国が「米台日連合」と武力衝突をする事態になれば、いくら兵力があってもそうたやすいことではない。軍事力のかなりの部分を南進させなければならない。手薄になった背後を、ロシアがつけばお終いである。モンゴルは単独では中国と闘うことはないだろうが、対中感情は良くない。ロシアを「通す」ことはあり得る。そうなれば、中共は逃走ルートを失う。
だから、日本は対ロシア、対モンゴルとの外交を考えなくてはならないはずである。背後に不安を抱える限り、中共は動けず、台湾海峡は安全を確保できる。

この本を読んで感じたのは「国益」に対する佐藤氏の執念である。なんというべきか。
この書のタイトルが「国家の自縛」であるのは、佐藤氏自身の自縛という意味であろう。国益という名の呪縛に、外務省を逐われた今でもこだわり続ける。
この才能を生かし切れなかったのは、どう考えても国家の損失になるような気がしてならない。

評価は☆☆☆。
何より、薄っぺらな口先だけの国家論は、すべて本書のもつ「すごみ」の前に圧倒されてしまうだろう。今の日本外交を具体的に考えてみるならば、必読の書ではないか?
対談集といって軽く読み飛ばせるようなものではない。また気になる箇所を読み返さずにはいられないだけの魅力をもつ。期待に違わぬ本である。