Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

グラン・ギニョール城

「グラン・ギニョール城」芦辺拓

ネットのミステリ投票で一位をとったいう本。なるほど、こりゃ「メタミステリ」流行のなかで、大したもんだわなと納得した。

あのエラリー・クイーンが発行していたミステリ雑誌「ミステリー・リーグ」は3冊発行して中断したが、その3冊目に「グラン・ギニョール城」というミステリの「問題編」だけが掲載。つまり「解決編」は雑誌の中断によって日の目をみなくなってしまったわけだ。
で、その「解決編」を、なんと旅行中の客船の中で作者と知り合った某富豪がいて、その富豪は「解決編」を入手、自費で翻訳出版した。その富豪の後をついだ養子が、この小説とそっくりのお城のような廃ホテルの中で、役者を集めて「グラン・ギニョール城」の再現劇を行う。そこで「演じられる」はずの殺人事件が、なんとホンモノの殺人になってしまう。さて、「解決編」の示す犯人とは???

というような展開で、つまり「劇中劇」がそのままミステリのタネになっているという入れ子のような構造になっているのだな。メタミステリという「ミステリ自体がミステリのタネだった」という「読者を作者が叙述の構成自体で騙す」のが、この作者には気に入らなかったらしく、メタミステリの枠をとりつつ本格ミステリとして成立させようとしたわけだ。

こういう努力は、私は大好きである。簡単に開き直らないで、なんとか折り合いをつけようともがくところから、新しい地平が生まれることもあるんじゃないかな。
作者の意図と、作品の質が見事に噛み合っており、確かに評価が高いのも頷ける出来映えである。
私は、この作者の作品を読んだのは初めてだが、実に面白く読んだ。他の作品も読んでみたいと思った。
残念ながらこの分野では「一発屋」というのも、よくあるんだけどね(苦笑)

評価は☆☆。
やや惜しまれる点は、ラストの謎解きである。作者はあまり好きでないのか、ラストの解決編は淡々と。まあ、ハリウッド映画にでもするつもりかいな、というようなハデなラストシーンが流行ったことへの反動もあるんでしょうが、もうちょっとサービスしてくれても良いのにな、と(笑)
文庫には、そういうわけではないだろうが、掌編が作者の後書き代わりにおまけされている。サービス精神があるのは良いことで、それなら余計に本編を書き込んで欲しかったような(笑)
だけど、この掌編もなかなかの佳作。