Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

わらの女


いわゆる完全犯罪小説。
ヒロインのヒルデガルドは、34歳の独身女性で、戦乱でいったん廃墟となったハンブルグに住んでいる。彼女は、今の生活から脱出するため、新聞広告のある大富豪の花嫁募集広告に応募する。
やがて返事が来て、その広告主に会う。広告主の男は、大富豪ではなく、ある年寄りの大富豪の秘書をしている。彼の計画は、ヒルデガルドと大富豪を結婚させ、彼はヒルデガルドの養父となって、彼女が相続するはずの莫大な遺産の中から分け前を貰うことだった。
こうして、二人の共謀によって、計画はスタートする。。。

女流作家が、女性を悪意に描こうとするときの筆力には怖ろしいものがあるなぁ。とても、こういう風に男性には欠けないだろうと思う。
若くて(34歳と言えば充分に若い)美しい独身女性が、なぜ金持ちの年配の大富豪と結婚するような罠に簡単にかかってしまうのか?そして、秘書の男の冷徹な計算があますところなく描かれている。
さすが、世界の名作ミステリ100選に入るだけのことはある。

お金があれば愛はいらないとまで考えるのではなく、お金がある人を好ましく考えてしまうようになるというヒロインの心の動き。そして、騙されたと説明する彼女の説得力の無さ。
こういうのが、本当に残酷な描写だと思う。「残酷な光景」を描写して、残酷なシーンを描いたと思いこんでいる三流作家とはモノが違うのだよ。本当の残酷とは、人の心の弱さと愚かさを、しっかりと描ききることだと納得させられる。

評価は☆☆。
今となっては、やや古びてしまっている部分も否めないけど。
それでも、この充分に練られたプロット、終幕に近く真相が明らかになっていくときの容赦のないヒロインに対する描写は圧倒的だ。面白いこと請け合いである。