Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

黒字亡国

「黒字亡国」三國陽夫。

日本は、世界一の債権国として、たっぷりと貿易黒字をため込んでいるわけだが、それはすべてドルで持っているわけだ。その現状が、実は「アメリカの通貨植民地ではないか?」と指摘する本。
説得力は抜群である。

インドと英国の例を引いて著者は説明している。
それを、もっと分かり易く示そう。

かつて、英ポンドは世界の基軸通貨であって、英国はインドに宗主国として君臨していた。もちろん、インド人だって、タダで奴隷として働かされるわけではないので、農園で働けば給料を貰うわけだ。
その給料の一部を彼らは貯金するわけだが、そのときに弱いインドルピーではなくて、英ポンドで預金をもつことにした。
実際に、英国がインドに給料を払うわけだが、そのとき、一部を「インド人名義」に書き換える。これで、インド人は英ポンドで預金をもったことになる。

さて、大東亜戦争がきっかけとなって(というと怒る人がいるかもしれないが、だってそうなんだもん)インドは目出度く独立。
そうすると、インド人は当然、英ポンドで貯金していたお金を返して欲しいと思う。
英国も、もちろん預金の引き出しに応じないわけにはいかない。
それで、ポンド札を印刷して渡す。
さて、どうなったであろうか?
もちろん、ポンドの価値は大暴落、英国は没落して、ついでにインド人の預金もフイになってしまった。

今の日本の状況は、これにそっくりであると言うのである。

さて、インド人はどうしたら良かったのだろうか?
この本には、その回答が示されていないけど、これは簡単に分かることである。

つまり、インド人が英ポンドを引き出すと、ポンドは暴落してしまうわけだから、引き出せない。
しかし、引き出さないまま、ポンドを貯め続けると、英国の国際収支の赤字は無限に積み上がっていく。Xデーが訪れたらおしまいである。

正解は、インドが英ポンドを使って、英国のものを買うことであった。そうすれば、インドは英国から財を手に入れ、英国は輸出によって潤うことになるから、ポンドは強くなる。すると、インドが持っているポンドの価値もあがるわけで、インドは英国からモノを買い続ければ良かったのである。
では、英国から買うものがなかったらどうするか?
インドは、植民地支配で、徹底的な文盲政策がされていた。日本と違って、英国はインドにエリートが出現することを懼れて、ただの一校も大学をつくらなかった。だから、インドに大学を建設する仕事を英国にさせれば良かった。もちろん、英ポンドで払うのである。

結局、「増え続ける貿易黒字」というものの実態は、金を貯めたものの買うものがないから、代金をそのまま相手に預けておくに等しい。アメリカは、国際決済通貨の発行国であり、昔のような兌換券(金と交換できる)ではないので、たんに紙幣を印刷するだけで、増える赤字に責任をとらない、というわけである。

別に難しい話をしているわけではない。
国際通貨などというから、難しく見えるだけで、真実は簡単である。すなわち
「お金は、使ってはじめて価値がある。貯めるだけが目的のお金なんてありえない」
という、ただこれだけのことなんですなぁ。

たとえば、私が、自分で使い切れないお金をもっていても、それは無価値だと言うわけである。至極当然であって、私がどんなに自転車好きでも、同時に2台の自転車には乗れない道理で、そうすると保有する自転車(もちろん、乗って楽しむことが前提だ)の数にはおのずと限りがある。自転車の超高級車はだいたい150万円くらい。すると、それを超える金額を「自転車予算」としてもっていても価値がないわけだ。

もっとも、世の中には、自転車じゃなくて「恋人」を同時に複数所有できる剛の者もいらしゃるようであるから、そう簡単ではないのかもしれんなぁ(苦笑)到底、私ごときの及ぶところではない。

評価は☆。
壮大なテーマと単純な結論の乖離がほほえましい。
この程度の本を読んで深刻になっちゃいけませんです。「へー」と思えば充分ではないかな。