Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

イヴの7人の娘たち

「イヴの7人の娘たち」ブライアン・サイクス。

動物の細胞の中には「ミトコンドリア」という小胞があって、こいつがエネルギーを生成しているのだが、このミトコンドリアは母系遺伝する。かつて、皇位継承問題の議論の時にY染色体が男系遺伝する点が指摘されたことがあったが(事実、Y染色体は男性を作る以外には機能はないと考えられる。ついでに言えば、皇位継承という伝統文化の問題は、Y染色体という物質の問題でないことは明白だろうと思うがなぁ)同じように、ミトコンドリアは「女性から女性に」分かり易く言えば「母から娘に」しか遺伝しない。息子も、母親と同じミトコンドリアを保っているが、彼の子どもは母方のミトコンドリアしか継承しないから、もしも子どもが男ばかりであれば、ミトコンドリアの系譜は絶える。

このミトコンドリアだが、母からそのままの形で娘が受け取るのだが、長い年月の間には突然変異を起こす。全体が変わる訳ではなくて、1カ所の配列だけが入れ替わる。つまり、長く母方の先祖を遡ると、みんなミトコンドリアの同じパターンを保っているのだが、微妙に違いが出る。その違いを見比べると、だいたい何年前の(何世代前の)ものか分かる。

このようにして、ヨーロッパ人のミトコンドリアを調査していったら、たった7人の母親にたどり着いた、ということである。そればかりではなく、世界の沢山の民族の人々が、どんどん遡ると母系でつながっていき、最終的にはアフリカに住んでいた、たった一人の女性に行き着く。その女性が「イヴ」である。ヨーロッパ人の母親は、イヴの7人の娘たちに収斂する。

ちなみに、日本人のミトコンドリアを調べたら、現代韓国人とほぼ同様のパターンであった。つまり、多くの日本人は、韓国からの渡来人である。
ただし、例外があって、アイヌ人と沖縄人は違う。すると、縄文人(旧日本人)が住んでいた日本列島に渡来人(弥生人=現日本人)がやってきて、縄文人が南北に逃げた、というストーリィができそうに思われる。しかしながら、アイヌ人と沖縄人のミトコンドリアパターンは一致しない。つまり、この仮説は成立しない。もともと、アイヌ人と沖縄人は、別々に住んでいた(交流がなかった)としか思えない。縄文人がいたなら、彼らが北にばかり逃げて、南に逃げる者はいなかった(または、その反対に南に逃げるものだけだった)ということになってしまい、不自然である。
ミトコンドリアは、それ以上のことは語ってくれない。

評価は☆。
なかなか、面白い本である。興味深く読んだ。ミトコンドリアの系譜から考えれば、「人種」という概念が消えてしまうところなどは、面白い話であると思う。

ミトコンドリアは、もともと、我々の細胞にあったものではなかった(別の生物だった)と考えられている。このミトコンドリアが、我らの先祖の原始生物に「寄生」することにした。その方が、生きていくのに都合が良さそうだった。ある日、ミトコンドリアは、我々の細胞からの「脱出」を試みる。ところが、我々の細胞は「ミトコンドリア」を捕まえて取り込んでしまい、脱出できないようにしてしまっていた。ミトコンドリアの立場から言えば、すべての動物が、彼らを「収奪」していることになる。
生きることは、なかなか複雑な問題だと思うのであった。