Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

素晴らしき愚民社会

「素晴らしき愚民社会」小谷野敦

相変わらずルサンチマン全開で滅多斬り。いや、やっぱりすごいなぁ。
小谷野敦のおそるべきところは、自分が傷付くことを恐れていないことだろうなぁ。
ホンモノの知者が覚悟を決めたときは、もう手がつけられないのだ。

ネットの普及によって「馬鹿が意見をするようになった」「2ちゃんは便所の落書き」だと断言し「馬鹿に選挙権はいらない」と書き、返す刀で日本のアカデミズム内部に巣くう左向き論調も一刀両断。
嫌煙ファシズム批判は報復絶倒なのであるが、本人が大まじめなのでさらに面白いのである。

評価は☆☆。
まあ、この本を読んで分かったことは、私も「大衆」の一人だということである。
著者は、本書の中途から「転向」宣言をし、大衆批判からアカデミズム批判に変わるあたり、すごく率直でもある。

知に傾くとシニシズムに陥る、とか。ポストモダンを「中庸などないと開き直るやけくそ哲学」だと断言するあたり、非常に頷かされるものがあった。

巻末の後書きにある、イラク戦争に関する指摘が鋭いので要旨だけ。
サヨク勢力のいう「平和主義」に基づいて(憲法9条の立場から)一切の海外派兵を行わない、という立場はあり得る。その場合、その国にどんな独裁者がいて人民を殺しまくっていようとも、他国であるから一切干渉しないということになる。これは、つまり「国家」という国境を絶対視した考え方に他ならない。「人類みな兄弟」であれば、独裁に苦しむ人民のために軍を動かす理屈は出てくるが、「他国だから」という理由で軍事行動が排除されるのであれば、実はこれこそ最も強い「国家主義」と言うべきでないか。

はは、なるほどねえ。愚民としては、ただただ感心するほかない。