Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

金門島流離譚

金門島流離譚」船戸与一

主人公は、元貿易商社マンで、退社後は金門島で非合法の偽物の輸出入ビジネスを行っている。ある日、彼の旧友が尋ねてくる。その男は、そのまま金門島で殺されてしまう。
その遺体を引き取りにきた人物は、主人公と別居状態で、送金だけを続けている妻だった。友と妻の不倫を知った彼は、正式な離婚を決意する。金門島の愛人と入籍を考え始める。
そんな彼のもとへ、今度はすっかりちんぴらに成り下がった息子が尋ねてくる。その息子は、主人公の愛人を殺してしまう。
そんな状態になった彼は因果応報だと思うのであった。彼を追って、日本から警察がやってきて、最後には主人公の昔日の殺人も白日のもとへ。。。

例によって、国際的な情勢を背景にした船戸節である。やっぱり面白い。

この小説で面白いのは、金門島がなぜ非合法ビジネスのメッカになってしまうか?という解説である。
実は、金門島は、その存在自体が「国際法の狭間に落ちた存在」である。
現在、金門島は台湾の国民党政権が実効支配している。国民党は、日本が敗戦によって手放した台湾を領有している。ところが、日本はもともと金門島を領有していなかった。ならば、中国共産党はどうかといえば、なにしろ「一つの中国」という建前がある。台湾政府に文句をつければ、自国以外に政府が存在することを認めることになってしまう。
結局、金門島問題は国際間の狭間に落ち込んだままであるのだ。従って、中国共産党は、金門島の偽物ビジネスについて文句をつけられても「取り締まる」とも言えないし、「知らない」とも言えない。台湾は文句をうつけられたいのだが(国内問題として処理する口実になる)諸外国もそれは言わないのである。

評価は☆☆。
やっぱり船戸与一は面白いなあ。

ところで。
さらに面白い話として「白団」の話が出てくる。
50年代になって米国に見捨てられた蒋介石は、旧日本陸軍に軍事指導を依頼する。「米国式の物量に頼む作戦は、我が軍には向いていない」つまり、米軍の支援がなくて物量作戦はとれないわけだ。
「赤化」に対する防衛を頼まれたのは、元陸軍大将の岡村寧次である。彼は、自分の元部下を台湾に派遣する。ちょうどそのとき、中国共産党金門島侵攻が生起。たまたま現地にいた旧日本陸軍将校達は指揮を執り、見事金門島防衛に成功するのである。その数、実に700人と言われる。赤化に対抗する軍団という意味で「白団」と呼ばれたのである。これも歴史の狭間であろう。

たいへん船戸与一らしい綿密な調査に裏付けられた、面白い小説である。お勧めですぞ。