Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

大仏破壊

「大仏破壊」高木徹

副題が「ビンラディン911へのプレリュード」となっている。本書はNHKドキュメンタリーの取材をもとに書き下ろされたものであるが、大変な労作であるとともに、いったい「911」とは何であったのか?ということについて改めて考え直させてくれる。衝撃の書である。

2001年に、アフガニスタンバーミヤンにあった巨大な石崖仏が破壊された。当時、アフガニスタンを支配していたタリバンが、爆破したのである。バーミヤンの石仏破壊に関しては、事前に情報が流れていたこともあって、世界がこれを中止するようにタリバンに要請するということがあった。タリバンは、いったんこれを受け入れたように見えたが、しかし、爆破を強行してしまう。その「方針転換」こそ、アフガニスタンタリバンが「イスラム原理主義」に転向した瞬間であり、アフガンの中に巣くったアルカイダが政権中枢を乗っ取った瞬間であった。
なんのために石仏破壊が必要であったのか?実は、それは「911テロ」による貿易センタービルの破壊と全く同じ論理に貫かれている。

かつてアフガンがソ連に侵攻されたとき、これに対抗したのはムジャヒディン(イスラム聖戦士)と呼ばれる義勇兵たちであった。西側世界は、彼らを支援した。その結果、ソ連は退却し、ムジャヒディン達もいったん故郷に戻ることになった。
その後、世界はアフガンのことを忘れてしまうのである。

ここで西側の「勝手」を非難するのはたやすい。しかし、主権国家が独立を回復した後も影響力を行使するのは「内政干渉」のそしりも受けかねないことである。
ただ、アフガンは無政府状態となり、混乱が続いた。

そこに、田舎の神学校で学んでいた学生「オマル」が、「タリバン」を立ち上げる。混乱した国内の治安を回復し、一定期間後に政権を明け渡すというふれこみであった。タリバンはたちまち国を憂えるイスラム義勇兵達の賛同を得て、巨大な勢力に発展する。

ここに、アラブで行き場のなくなったビンラディン達が合流する。ビンラディン達は、オマルを金と武器の調達で懐柔する。質素な神学生だったオマルは、百戦錬磨のビンラディンの弁舌と財力に取り込まれていくのである。

アラブ諸国にとっては、国内不満分子を「輸出」するのにアフガンほど都合のよいところはなかった。「義勇兵」で志願すれば、タダ同然で航空券を支給する国まであった。もちろん、片道である。

かくて、アフガン国内には至って粗暴な性格のアラブ人があふれることになった。いったん、タリバンのおかげで治安を取り戻したアフガンは、再び無政府状態に逆戻りしたのである。

ビンラディンが「大仏破壊」を仕掛けたのは、もちろん偶像崇拝を禁じるイスラム原理主義の影響もある。しかし、それ以上に大きな効果をねらったのは、これがイスラム義勇兵(不満分子)を募集するのにもっとも効果的なプロパガンダになるからであった。自らの勢力拡大を行い、テロルを実行することが大義であるから、そのためには命を惜しまない若者がたくさん必要である。
バーミヤンの大仏は、宣伝のために破壊されたのである。

そして、911テロである。効果は抜群だった。西側諸国に不満を持つ連中は、911テロの結果に驚喜し、パキスタンやイランルートを使ってアフガンに大挙して入国したのである。

評価は☆☆☆。
911テロからイラク戦争へ。その背景を理解するのに、まさに必読の書であろう。これは、頭の中の主張という幻を書いた本ではない。現地の取材、タリバンから亡命した関係者の取材という足で書いた本である。

アルカイダが地下でばらまいた義勇兵募集VTR(通称:リクルートビデオ)には、一瞬ではあるけれど、日本の浅草寺が映っている。このビデオは、大仏破壊の前に制作されて流されたものだ。日本が、イラク戦争を支持したからアルカイダの標的になったわけではない。それ以前からの話なのである。

自爆テロというのは「人殺し」である。「反米だから」人殺し事件がおきるのだ、というのが今の日本の識者の常識となっているように見受けられる。
だったら、明日からオウム真理教も「反米」を旗印にすればいい。きっと「識者」が、したり顔で理解を示してくれるようになるんだろう。

人殺しの理屈に耳を傾けるつもりは、私にはまったくない。