Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

葉桜の季節に君を想うということ

「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午

物語は、主人公の現在「蓬莱倶楽部という悪徳商法の調査活動」と過去「ヤクザ組織に探偵として潜入し、殺人事件の内偵を行う」ことが交互に描かれることで(カットバックの手法)描かれます。この手の小説にありがちな煩雑な印象はなくて、ちゃんとすいすいと読めると思います。
で、すいすい読んでいくと、最後にきっちりだまされるわけです。だまされて「ああ、よかった」としみじみ思うのですね。
これ、名作であります。「このミス」1位は伊達じゃない。

文句なし☆☆☆。
というか、この小説が三つ星じゃなかったら、何に三つ星をつけたらいいか、わかりませんからね(笑)。未読の方は、幸福であります。だって、これから読めるんだから。

しかし、注意点があります。あまりお若い方、簡単にいえば10代20代、やっぱり30代の方も、良さはわからんでしょう。無理、であります。

本書の最後に、林語堂(蘇東坡伝などで有名な中国文学者)のエピグラムが掲げられております。この本のテーマは、まさにそれです。書いちゃうと、ネタバレですから。

つまり、ですね。
桜の花の季節は、皆がきれいだと褒めそやします。しかし、桜の季節は、はかなく消え去ります。その後、しかし、桜は消え去るわけではないんです。葉桜となっております。桜は、秋には紅葉します。もみじのように燃えるような赤にはなりませんが、しかし、黄色や赤になります。
葉桜だって、桜の紅葉だって、それはそれなりに美しい。
そういうもんじゃないですかね。

であるから、まだ花の時代、やっと若葉の時代の人が読んでもわからんのです。紅葉になって、思えば一年は短い、さて、ゆっくりその葉も散らんとするわけですが、それがあるからこそ、花には花の美しさがあり、葉には葉の豊かさがあり、落葉にはその風情があることがわかるわけですな。
「わかる」ということは、「知識がある」ことではありませぬ。知識があるからわかると思うのは、まだ浅いことであります。

などと。あまり書いちゃいけないですね。ふふん。

だまされたと思って、未読の方は読んでください。ちゃんとだましてくれますからね(笑)
書き出しがちょっと下品ですけど、それは我慢して。最後まで読めば、すべてわかりますから。