Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

スーパーコンピューターを20万円でつくる

スーパーコンピューターを20万円でつくる」伊藤智義。

スーパーコンピューターというのは、とてつもなく高い代物(億を超えるものもザラ)なので、なかなか一般の研究室では保有するわけにいかない。で、たいてい、時間貸しで借りることになる。借りると、借り賃がかかるし、自由に使えない。細切れに使うことになるのだが、ある種の研究には、これが困る。それで、とにかく安く、スーパーコンピューターをつくろう、というので、東大の研究室である種の用途に特化したスパコン(=スーパーコンピューター)を、秋葉原で買ってきた部品を組み立ててつくってしまった。それが「GRAPE」である。
本書は、そのGRAPEプロジェクトのドキュメンタリーである。

自然科学では、しばしば代数的手法で解けない問題、というものがあるらしい。その典型が星団の問題である。ある恒星の周りを回る惑星の動きは、ケプラーの法則から代数的に解ける。しかし、その星が複数になってくると、話は別になる。星が何年後にどこにいるかは実際の観測結果から計算しないと解けない。
そういえば、数学では五次以上の連立方程式の一般解法はないのだったな。
つまり、重力計算というやつは、精密な観測結果+すごい計算量が必要なので、スパコンがいるわけである。

で、GRAPEプロジェクトのスタートは、一般のスパコンが「プログラムを組めば、なんでも計算する」のに対して「重力計算しかできないコンピュータ」なら、もっと高性能なものを、もっと安くできるのではないか?ということであった。
この試みは劇的な成功を収めることになった。それが「GRAPE」プロジェクトで、今や斯界では有名な存在なのだそうである。

評価は☆。なるほどねえ。自然科学系のアタマを持っている人は、工学系でも優秀なんだなあ、と実感させられる。こうなると、もはやオツムの構造が根本的に違うのでしょうなぁ。

現在のコンピューターは、アメリカの天才数学者フォン・ノイマンが提唱したモデル「ノイマン型コンピュータ」というモデルに基づいている。ノイマン型は、早い話が計算と記憶を分けて、計算の手順(プログラム)と結果の保持(メモリ)をもつことで、計算手順を入れ替えれば(プログラムを変えれば)いろいろな計算ができるようになっている。GRAPEプロジェクトのスパコンは、やっぱりノイマン型なのだけど、着想としては非ノイマン型(計算手順とメモリが一緒くた)に近いような気がする。非ノイマン型コンピューターの典型は「流体コンピューター」などであるが、そういえばGRAPEプロジェクトの計算対象も近い。

どちらかといえば「プログラムはなぜ動くのか」などを読んだ、コンピューターのアーキテクチャに関して一通り知識がある方が面白く読めるだろうか?
あくまで雰囲気の問題で、別に特殊な知識が必要なわけではないけどね。

大胆に発想を変えて、根本的なところから構造そのものを変える。「改良」でなくて「改革」をする。アタマではわかっているけれども、なかなか出来ない。
実は「わかっていない」からではないのか?本当に「わかっている」人は、変えられるのではないか?と思った次第でありました。