Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

銀輪の覇者

「銀輪の覇者」斉藤純。

昭和9年、歴史の闇に葬られた全日本サイクルレースという本州縦断の自転車ロードレースがあった、という仮想で書かれた本。

まぎれもなく「SF」である。
作品の舞台がSFだ、なんてわけじゃない。そうではなくて、このレース本は、なんと重い実用車(あの牛乳配達とかに使っている頑丈なヤツです)で、毎日100KM超を走るロードレースをやるのだ。
で、その重たい実用車(たぶん20KG以上は余裕にあるだろう、なんていったって戦前だし)をガンガン飛ばして、あげくにドラフティングまでやったりするのだ。ドラフティングというのは、自転車が集団走行するときに前車との間隔を詰めて空気抵抗を減らす走法であって、だいたい時速25KMは超えないと効果がない。現在のロードレースの選手は時速40km超で走るから、そりゃ空気抵抗も大きいのだが、実用車でその域に達してロードレースをするとなれば、これはSFですなあ。

評価は☆。
舞台設定のムリさ加減はおいといて、自転車レースのおもしろさを知るには良い本じゃないかと思う。

自転車ロードレースの醍醐味は「呉越同舟」にある。つまり、敵味方がお互いに協力するのである。単独走行していると、空気抵抗で疲労してしまう。で、他人の後ろで楽をすることを考える。そうすると、前になっているヤツは面白くない。「あんたが前を走れ」となる。仕方がないから「先頭交代」つまり、代わりばんこに先頭を走って、疲労を分散するのである。そうして集団を形成すると、単独よりも早く走れる。ただし、最期まで麗しい協力関係を維持することはできない。やはり一着は一人しかない。で、協力しつつ、いつ裏をかくか、丁々発止の駆け引きが行われるわけだ。仲間はずれでおいてけぼりを食ったり、一か八か飛び出したりもする。

自分の利益を考えつつ、しかし協力も基本で、つまり自転車レースのおもしろさは「外交」そのものなのである。
外交下手な日本で、自転車ロードレースの人気がないのもむべなるかな、ですなあ。