Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

法律の世界地図

「法律の世界地図」21世紀研究会。

著者の21世紀研究会は、学者ではなくて素人の有志ということになっている。どうも、シリーズもので出版されているようだが、私はこの本を読むのが初めてである。
本書の内容は、おおまかに言えば
「法律の歴史」
イスラム法
「世界各国の法律」
ということになると思う。

このうち、法律の歴史に関しては、一応大学で「法史学」などをやったので、ローマ法継受など思い出しながら読んだ。
国際法が、海洋貿易の発達にともなってつくられていったことは有名である。
また、中国をはじめとするアジアの「法」が、欧州の法と成立過程の違いから、それぞれ「お上が定めるもの」「国民の権利を確保するもの」という受け止められ方をする、などという指摘は興味深い。

イスラム法に関しては、私はまったく知識がなく、初めて知ることばかりであった。
この21世紀研究会は「中立」を旨としているので、イスラム法に関しても「もともと寛容なもの」という主張を繰り返している。今、もしイスラム法を「未発達(野蛮)」だといえば、即刻右寄りになってしまうので、これは仕方がない。
ただし「武装してない異教徒を殺すことも場合によっては合法となる」とハッキリ書いてあって「平和なときは平和」だと言われてもねぇ。オウム真理教だって、平和なときは平和にきまっておりますがな。
私の常識では、どうしてもイスラム法は「寛容」には入らないような気がして仕方がないのですな。
だいたい、盗めば腕一本切り落とし。不倫で石打ち(投石で死に至らせる)。
ま、異文化を許容するということで、こちらのほうがむしろ寛容でなくてはいけない、ということになるんだろうが、なかなか「中立」も苦労するものだと苦笑。
また、イスラム法の成立から既に多くの年月が経っているため、しばしば宗派や国によってイスラム法学者の解釈が割れてしまうこと。実際に、著者が「イスラム法だって近代的な価値観を許容しつつある」としているのは、どうみても「解釈改憲」である。原理主義者が反発するわけだ。
複雑であるが、正直なかなか理解は難しい。

死刑執行に関しては、世界の過半数が廃止。ただし、これは本書で説明していない裏がある。
死刑の廃止国は、主に欧米とアフリカなのだが、アフリカ諸国の場合「軍事法廷は例外」というものがほとんど。なぜかというに、まだまだ内戦が多い地域であって、強盗だって実際は「反政府勢力」として軍事法廷にかけられてしまうから。
アジアでは、圧倒的に死刑存続国が多い。そういえば、死刑廃止派には「アジア重視」を叫ぶ人はいないのかな?こういうところで「アジア重視」「アジアの中の日本」だと言えば、その思想の貫徹ぶりを評価できるように思うが(笑)残念ではある。
ま、これも一つの統計で「国」単位だとそうですが「人口」による比率だと、また比率は変わるだろうしね。世界における一票の格差。はてさて、どっちがいいのやら。

評価は☆。なかなか面白い。

ところ変われば品変わる。正義も一様でなく、それぞれの地理や歴史によって変わる。そういうことが理解できればいいんじゃないかと。

私見によるが。もうちょっと大きく踏み込めば「民主的法治国家」なるシステムそのものが、欧米の文化の産物であって、唯一の尺度とは言えない。ただし、その中で「普遍」とされてきた価値に対して支持国が増えているのも事実。それを、欧米による文化支配とみるか、それとも歴史の進歩とみるか。
欧米による文化支配だと言えば格好良いだろうが、世界の趨勢を見ない議論になりかねないし、かと言って歴史的な進歩の過程(歴史の必然)だとみれば、それこそ欧州的価値観に対して無自覚な特定の価値観だとも言えるわけだ。何にだって理屈はつく。
日本人は日本人らしく、というが、その日本人らしさをどこに見いだすかも難しい。
ことに、我々戦後の世代はそうではないかと思ったりするのである。