Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

環境問題はなぜウソがまかり通るのか2


私は、この武田教授の大ファンである。
この方は、ずっと環境問題に関する疑問を指摘し続けている。
本書は、「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」に増補したもので、これを買えば前書は必要ない。

いくつか、本書の指摘事項を挙げておこう。
まず「京都議定書」であるが、実は「政治的な動きの産物」である。なにが「政治的」かというと、実はEUが米国、日本に対して優位を確保しようとした外交戦略だということである。
この「「京都議定書」だが、CO2排出の基準年が1990年なのである。これはどういうことかと言えば
「1990年を基準にすると、EU京都議定書達成年に、既に基準を達成していた」
ということである。東独の統合によって、効率の悪い石炭発電所がたくさんあった。それを、最新の火力発電に交換するだけで、あっという間に達成できる。
一方、米国は、最初から達成できないことが分かっていた。だから、議会で批准しないのである。ちゃんと、ゴアが京都会議に参加する以前に「批准拒否」の法案が出されているのである。
一番の馬鹿が日本で、ご存じの通り、80年代バブルで日本の製造業は設備投資を大幅に行っていたので、1990年を基準にすれば、CO2の削減は「チーム-6%」どころではない。達成不可能な数字である。
ところが、京都会議に各国首脳または外相が集まっているのに、日本は環境大臣が出席した。元外相の川口順子氏だから、と思ったのかもしれないが、川口氏は拉致問題に見られるように「対話重視派」である。「環境保護はいいこと」だとう単純な前提で「話し合い」に乗って、ハナから達成不可能な議定書に「ホスト国として」調印してしまった。
各国は、これが新たな外交問題だと認識できない日本政府をせせら笑っていたのである。

京都議定書にはヘンテコなルールがある。つまり、先進国が途上国で開発を行うと、その分を先進国で削減したと見なすのである。また逆に、森林を保有する途上国から先進国は「排出権」を買うことができる。
日本の立場になって考えてみると、京都議定書は国内投資の足かせとなり、逆に外国投資を促進するように働く。外国からみれば、日本のカネを引っ張り出す口実なのである。格差問題で騒いでいるが、再投資が国内に向かわない以上、ますます産業の空洞化が進むしかないのである。
その上、このままでは日本は排出権を買わざるを得ない。どこから買うか?といえば、大森林を擁するロシアである。考えてみればわかるが、CO2を削減するには、森林面積が「増加」しなくてはいけない道理である。しかし、議定書では、単に森林面積なので、こんなことになってしまう。

アメリカは、官僚も議会も、このようなシステムをよく理解していたので「アフリカ諸国が賛成しない」ことを理由に批准を拒否した。
戦略無き日本だけが、相変わらず世界のキャッシュ・ディスペンサーとなる。

リサイクル促進法もおかしい。リサイクル促進法には「回収」しか定めていない。それも、回収したPETボトルを、どれだけ業者に引き渡したかが「リサイクル率」となっているのだ。
つまり、もしもPETボトルを1本しか回収しなくて、その1本を業者に引き渡せば「リサイクル率100%」になるのだという。バカバカしい話である。
実際には、PETボトル回収には市民一人あたり500円の税金を使っている計算になるが、このPETボトルは資源として大量に中国に売られる。
回収業者は、税金でPETボトルを集めてくれるわけで、原価はタダである。大もうけに決まっている。なんでこんなことになっているのだろうか。

さらに、温暖化による海面上昇だが、59センチは最大の場合という仮想でしかない。それも、あと100年くらい温暖化が続かなくてはいけない。ところが、あと100年焚くだけの石油はないじゃないか。何を焚いて温暖化するのか、そっちを心配したほうが良いわけだ。

興味深い話は尽きない。
評価は☆☆☆。環境問題が、現代の宗教となってはいけない。鋭い指摘満載の書である。

ところで。
ゴア氏がノーベル平和章を受賞した。私は、やっぱりそこに政治的な動きを感じるのである。
アメリカは、今まで石油でもうけてきた。しかし、ブッシュ政権は石油で躓いている。
そこで、アメリカは「環境」に外交テーマを変えるつもりだ、そのサインだろうと私は見る。環境問題は、必ず食糧問題につながる。次は食料で、アメリカはロシアを対立することになるのだ。
中国が、「環境重視」を打ち出したのは、再び中ロ関係が冷えてくる合図である。中国は、米国に接近することになり、日本の相対的地位は低下するというのが今後の傾向だろう。
中国の株式市場の時価総額は、毎年200%くらい成長しており、このままであれば2010年に日本を抜いて「世界第二位の経済大国」にのし上がる。
2010年は石油のピークアウトが始まる年であり、日本の落日がハッキリと認識できる元年になるのじゃないかと思う。

日本の省エネ技術は世界一である。今から、日本が世界に売れるものは、それしかない。だから、日本の省エネ家電や省エネ自動車を買って貰えば、世界のCO2削減は進展する。
だけど、京都議定書では、そういうルールを盛り込めなかった。「対話」で、「ハイハイ」と調印してしまった。
優れた技術だけがあっても、政治が貧困じゃあどうしようもないじゃないか。思わず、ため息がでてくるのである。