Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

疲れすぎて眠れぬ夜のために

「疲れすぎて眠れぬ夜のために」内田樹

「今もっとも信頼できる哲学者」内田樹の著書。私自身がタイトル通りの状況なので、思わず手に取る。

仕事について著者は言う。「レイバーは、リスクを取らない」リスクを「負う」という言い方しかしない、と。
人の権限は、リスクを「取る」ことによって生じるのだから、もっともリスクを取った者がもっとも権限を持つ。
偉そうにしているくせに、責任はとらない人間は、だから「いやしい」のだという。
もっともである。

戦後民主主義は、地獄をみた日本人の「夢」である、という指摘も深く頷かされた。戦後復興を担った世代は、実に多くの不況と戦争を経験した。あまっちょろい考えはもたない、リアリスト達であったに相違ない。その人たちが、何もかもなくした灰の中から立ち上がるのには「夢」が必要であった。それが「戦後民主主義」である。だから、リアリズムを欠いている等の批判は的外れなのであろう。
ただ、その世代も、静かにこの世から退場しようとしている。戦後民主主義の意味を知っているリアリスト達がいなくなった今、やっぱりその役目を終えようとしているのかもしれない。

アメリカについて。
アメリカが「女性嫌悪」の文化である、という指摘は面白かった。西部劇は、「女は必ず馬鹿な男を選択して、まともな男は死んでいく」物語だという。
その原因は、アメリカの開拓時代に、そもそも男女比が40:1であったこと。多くの開拓者の男は、自分の子孫を残すことができず、ただ荒野に埋められた。だから、アメリカはそういう文化で無数のカウボーイを鎮魂しなければいけない国なのだという。
そこで気づいた。
私が、ハードボイルド小説を読むのは、明らかに「傷ついた男への癒し」の文学だからだ。
傷ついたとは、何か?簡単にいえば、女性に、である。もてないまま40を過ぎていることに、私はたぶん傷ついているんだろうなあ、と思う。癒しは、物語の世界にしかない、というわけだ。

評価は☆☆。なかなか、考えさせられるところの多い本であった。

本書の中で、著者は言う。「社会システムは、いつかは必ず寿命がくる。一夫一婦制も、国民国家もいつかはなくなる」しかし、である。
「なくなるから、じゃあすぐになくせ」という議論に著者は与しない。だって、その社会システムが発生して存続してあったということは、その時点では「役に立っていた」のだから。
社会システムは「寿命」があるかないか、それが大事で「寿命があるうちは、直して使いるつづければ良い。すぐに捨てて、新しいものがなくては困る」からである。
そういう「ナカとって、まあまあ」という思想は、私は大好きである(笑)
しかし、一夫一婦制と国民国家を、同じ次元であっさりときってみせる。内田先生、やっぱり大したものだねえ。