Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

サブプライムと日本の金融

サブプライム問題で「なんのためにアメリカ経済の尻ぬぐいを」だとか「日本の不良債権処理のときと違って、軟着陸を目指すアメリカはダブルスタンダードだ」という批判を耳にします。
「米資が悪の根源」と表明すれば、とりあえず賢い発言になるということでしょうか(笑)
そこで、経済人の端くれとして、このような安易な(と私には思えます)見解に、異を唱えてみたいと思います。

まず、アメリカのサブプライム問題で、数字的な面から把握します。(資料は11/30の金融庁発表による)
・世界で運用されるサブプライム証券の総額およそ700兆円 うち損失予測額40兆円
・日本のサブプライム投資の総額およそ40兆円 うち損失予測額4000億円
・日本のサブプライム損失の大口は みずほFG1700億円 野村HD1450億円 農林中金400億円

700兆円も世界が債券投資を行っていたのには驚くばかりですが、損失は40兆。これは、確かに日本の正味財政規模(なにしろ、80兆円のうち半分が国債の償還ですからなあ)に匹敵します。けれど、日本の損失は、蚊に刺された程度ではありませんか。上位3社で合計3500億円超。つまり、日本の損失のほとんどが3社でして、これは単に3社が運が悪かった、もしくはアホだったというだけの話です。

もっとも、この規模からすると、アメリカは売られます。ドルが下がります。相対的に円高です。それで「日本からまた金を吸い取って」と叫ぶ人が出ます。
しかし、冷静に考えてください。どうして、それが「日本から金を吸い取って」なのですか?

今、日本人が欧州に旅行すると、すっかり小さくなっていなくてはいけません。地下鉄初乗りが800円、パリでちょっとランチをして2000円以上。何もかも高くて、貧乏旅行者になります。円は安くて、輸出が好調で儲かっているのに、なぜでしょうか?
当たり前ですが、円が日本の実力です。円で買い物ができないということは、日本が買い物が出来ないということです。日本の製品を中国に輸出するのに都合が良いのですが、欧州で買い物を楽しむことはできません。それが円安です。それが、一般の日本国民にとって歓迎すべき事態でしょうか。

私は、何度も「円安は、東京の輸出企業を好調にする一方、地方の中小企業の沈下を招き、格差拡大の元凶になっている」と指摘しました。
今、ドルの独歩安によって、円高にふれてきています。これは、内需拡大には中期的にみて、歓迎すべき事態のはずなんです。

一方で、日本ではサブプライムローンのような問題が(3馬鹿金融を除いて)ありません。「さすが、我が国は優秀だ」と言っていいものかどうか。

大きな間違いを指摘しておきましょう。
サブプライムローンは「貧乏人に無理に家を買わせて金融資本がもうけた、とんでもない悪行だ」という見方です。いかにもマスコミが飛びつきそうな解釈ですし、そう思いこんでいる人もたくさんいます。
しかしながら、サブプライムローンは、確かに金利が高いのですが、それを小口債券化して転売したところに特色があります。買ったのは誰か?「有利な運用を狙った金持ち」です。これを「投資」と呼びます。「投資家」の仕事は、「損をする」ことだけです。だから、うまくいけば、不労所得を手にすることができるのです。今回は失敗したので、投資家は「仕事」をしました。つまり、損をしました。貧乏人が搾取されたというなら、サブプライムが「破綻しない」場合のことを指すべきで、今回は逆です。なんで、こんな簡単な話がわからないのでしょうか。

ついでに、日本でこのような手法が行われない理由も説明します。
アメリカで、サブプライムローンを組んでいた人が破綻すると、ローン返済中の人は家を失います。家は転売されますが、そのとき住宅価格が値崩れすれば、その分、債権は損をします(この損を投資家が負担します)だから、家を売った人は、そこで再出発します。

日本は、ローン破綻した人は、家を売ってなお、不足分は本人につきます。債権化されていませんから。かくて、住宅を失った人が、アパートに引っ越して家賃を払いながら、失った家の住宅ローンの残債も払うのです。当然そんなことは無理なので(できるくらいならローンが破綻しません)その人は自己破産します。すると、銀行は「連帯保証人」のところにつめかけます。そうして、昨日まで平和だった一家がある日、突然の負債のために生活苦に陥り、なかには一家心中なんて家もあります。

これが「サブプライムなどという貧乏人に家を買わせない、日本の先進的な金融システム」ですよ。どうですか?連帯保証などという制度を維持しているのは、先進国で日本くらいなもんですからね。

そうして、今日もテレビはしたり顔で「アメリカのために、なんで日本の我々庶民の生活が苦しくなるのでしょうか。ガソリンの値上げ、食費の値上げ、それにペルシャ湾の補給ですよ」と言うのです。
お茶の間の善男善女が「ほんとにそうだ」と思い(なぜそういう結論になるのかわかりませんが)ブログにも「米資が悪の根源だ」と書くわけです。

ため息が出るのは、私が屁理屈男だからなんですかね。ふー。

さて、ここで基軸通貨ドルの話を最後にします。

だいたいポンドが基軸通貨の地位を失うのに80年かかりました。米ドルを考えると、ニクソンショックの1971年を起点にすればいいでしょうから、およそ40年程度でしょうか。交代の時期は近づいているのかもしれませんが、しかしながら「次」の通貨は見えません。
かつての「金本位制」の時代は、金という現物資本を求めて世界は戦争ばかりしました。基軸通貨ドルは、大きな流れとしては世界の戦争を減らしたとは言えるのです。(もちろん、武力紛争はありましたが、いわゆる大戦は影を潜めました)基軸通貨は、通貨独占があって初めて成り立ちます(独占できない通貨は基軸通貨ではありません)。もしも通貨並立の時代が来たら、通貨よりも現物のほうが強い時代の復活となる可能性を孕むのです。
革命主義者は喜ぶのでしょうが、庶民にとっては悲しい時代になるのではないでしょうか。

我々庶民は、テレビでもっともらしくサブプライム損失問題で石油があがるなどと理屈の通らない話を垂れ流すジャーナリストもどき(!)とは違います。なんでもアメリカのせいにすれば、物事がすべて説明できるのであれば、そもそもものの理屈を考える必要はありません。気楽なもんです(笑)

などと、ぶつぶつ、今日も文句をたれているのですよ。
こんな見方もあるのです。