Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

生首に聞いてみろ

「生首に聞いてみろ」法月綸太郎

翻訳ミステリ流行のせいか、ハズレ(と自分には思える)に当たるのが悔しく、日本人作家の作品に手を出す。
なにしろ「2004年このミス」1位である。品質保証書付きである(笑)。

ある前衛彫刻家が病魔のために亡くなる。彼は全盛時代に「石膏直取り」作品で名をなした。つまり、人体に直接、石膏をひたした包帯を貼り付けて型を取る、それで石膏像をつくるという手法である。当然ながら、モデルは顔の型どりをする場合は目を閉じているので、すべて「祈りの表情」のようになる。それを嫌った彫刻家は、できあがった像にサングラスをかけるという展示を行って評論家に大変な悪評をかってしまい、そのために創作活動を中断していた。
彫刻家は、遺作を制作するにあたって、彼自身の娘をモデルに使い、再び石膏像をつくる。像は完成して、彫刻家はほぼ同時に亡くなったので、彼の回顧展が開催されることになる。呼び物は、初公開の遺作である。
ところが、この遺作の石膏像の首から上が切断され、持ち去られるという事件が起きる。器物損壊であるが、まったく真相が不明。捜査を依頼された法月であったが、今度は彫刻家の娘が行方不明となり、彼女の切断された生首がなんと展覧会場に送られてきた。。。

評価は☆☆。実に緻密で見事な構成である。寸分のゆるぎもない。これは「このミス1位」はダテじゃないなぁ。積み重ねられたパズルが見事にはまっていく、ラストは身動きできない。

私は、日本人のミステリ作家の中では、やっぱり法月が傑出していると思う。新本格というジャンルを開拓した島田荘司じゃ、それを発展させた綾辻行人もすごいと思うが、作品の論理とそこに漂う哀切さにおいて、やっぱり法月はピカイチだと思うなぁ。

簡潔なラストは、人間の愚かさを描いてあまりある。これ以上の描写はいらない。それを書いたら、たぶん「味の素」の味噌汁のようになってしまう。お出汁は昆布でサラリが美味いのである。読んだ人には分かるだろう。

本作品を1位に選出した「このミス」選定委員はやはりすごいね。納得の逸品である。