Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

クライマーズ・ハイ


直木賞拒否宣言で有名な横山秀夫の自伝的小説。著者の地方新聞記者時代の大事件「日航ジャンボ機墜落」が背景となっている。

主人公は、北関東の群馬県を本拠とする地方新聞の中年記者である。
社内の友人と登山に行こうと誘い合っていた日に、第一報が入る。「日航機が行方不明」である。
主人公はとりあえず出社。情報は錯綜する。「墜落か」「埼玉らしい」「いや、長野じゃないのか」
この状況の中、主人公はこの事件の担当デスクになる。

この新聞社は、かつて埼玉に拡販を試みて失敗し、撤退した過去がある。だから、もしも埼玉の事件であれば、紙面は小さくて良いのじゃないか、という風潮がある。
そこに、ようやく情報が入る。「群馬、御巣鷹の尾根」新聞社は緊張する。

若手社員を夜間に強行登山させ、現場から第一報を送らせる。その記事には凄惨な現場の有様がにじみ出ていた。
ところが、この貴重な記事は掲載されなかった。社の上層部は皆が記者出身で「大久保連赤」を未だに語りぐさにしている。連続殺人の大久保事件、連合赤軍事件に自分たちが関わったという自負である。
そういう社の上層部には「それ以上の事件が起こっては困る」のだった。
あまりのことに、主人公は呆然とし、その後猛抗議をする。しかし、社内の「派閥力学」は乗り越えられなかった。

主人公は、しかし遺族がわざわざ新聞を社まで求めに来たことに衝撃を受け、もう一度「どの新聞よりも地元のニュースに詳しい」記事を出そうと決意して、連日の取材を行い、紙面をこの事件で埋める。
社の首脳陣は、そういう主人公をさらに批判する。「しょせんもらい事故なんだから」「共同通信の配信記事で埋めりゃいい」
新聞の矜持はすでにないことが明らかとなる。

さらに、取材の過程で、大変な特ダネをつかむ。それは事故原因が「圧力隔壁の損傷」ではないか、というものだった。
この特ダネを掲載するか否か、主人公は苦悩する。
手応えはある、しかし、確証がない。もしも誤報だったら。。。迷ったあげく、とうとう掲載を見送った。ところが、その朝に、毎日新聞のスクープを見ることになる。「事故原因は圧力隔壁の損傷」記者として、大敗北の瞬間であった。

評価は☆☆。迫真の描写。無念さ。嫉妬。すごい小説である。

実は、このほかに、結局登山にいけなかった社内の友人の滑落事故と、主人公の子供との確執などの人間ドラマが挿入されるのである。ところが、悲しいかな、主人公に年齢は近いものの、私には子供も配偶者もない。そういうシーンを読んでも「へー」で終わる。これは致し方ない限界である。

去年は、人間の嫉妬ということについて、かなり思うところがあった。
男の嫉妬は、しばしば女性のそれよりもひどいのではないか、と思うことがある。酷いときには戦争の原因、そうでなくても美術界だの学会だのでしょっちゅう嫉妬が渦巻いている。文壇もしかりである。
そう考えると、後年、横山秀夫直木賞拒否宣言をするに至る過程も見えてくる、、、なんて言うと「うがち過ぎ」の見方なんでしょうなあ。

素直に推薦の一冊。ドラマを見てしまった人が、これを読んでどう思うかはわかりませんが。