Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ワイルド・ソウル

「ワイルド・ソウル」垣根涼介

正月休みに、なんぞ気楽で面白そうな本を、と考えて入手。こりゃ面白い。
「大藪晴彦賞」「吉川英治文学賞」「日本推理作家協会賞」トリプル受賞というのはダテじゃないねえ。

物語のバックボーンは、戦後の日本政府によって行われたブラジル移民政策である。「移民」といいつつ、実際は戦後の経済破綻によって食えなくなった国民をジャングルに「棄民」した政策であった。
なぜ、そのような政策がえんえんと続行されたのか?著者は、「いったん決まった政策を実行することで昇進していく」外務省の無策無能ぶりを「これでもか」という筆致で描く。
そして、その移民の子らの手によって、日本外務省に対する壮絶な復讐が始まる、というストーリー。

たしかに、これはハードボイルドであるけれど、綿密な海外取材の裏打ちによる迫真の描写と、ストレートでスピード感のあるストーリー展開は、むしろ舟戸与一を想起する。
これは「ポスト船戸」じゃないのかな?読みやすいぶん、船戸のような重層的な構成は避けられているけれども、そのあたりは意識してのことだろうか。おおかたの日本の小説の読み手には、このようなスタイルの方が受けると思う。「アク抜きした船戸与一」そんなの船戸じゃねえ(苦笑)まあ、そう言いなさんな。

評価は☆☆。読んで損のない傑作だろう。。
事実に即しているだけに、外務省に腹が立つこと請け合いでもある(笑)
日頃「害霧省」だと思っている人は、本書を読むとさらに血圧があがることは保証してもよい(苦笑)。

しかし、思うのだけど。
「移民」と「棄民」の境界線も、よくよく考えれば難しい話かもしれない。
本書にあるようなブラジル移民については、あまり論議の余地がないケースであるけれども。

たとえば、もしも日本が今「米国移民」政策を(戦前のカリフォルニア移民のように)行ったと仮定する。
すると、ジニ係数でいえば、アメリカは0.4を超える「格差社会」だから「棄民」じゃないか、という批判が巻き起こってもおかしくない。
ところが、一方で、今アメリカのグリーンカードを入手することはおろか、ワーキングビザの取得すら日本人でも難しいのが実際である。アメリカは、移民の国といいつつ、現実には厳しい移民規制をしているのである。日本人でも、なかなかビザをくれない。メジャーリーガーにでもなれば別だけど(苦笑)。
格差社会」つまり「資本主義のとっても悪がはびこる国」なのに、そこに「棄民」しようとしてもうまくいかない、実際には移住希望者が山ほどいるのである。

世の中、そんな単純じゃないのだ。
だから、こういう「単純な」お話が、我々の心を「スカッとさせる」娯楽小説として成り立つのである。
現実は、小説みたいにはいかなくて当たり前なんだからさ。ね。