Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

散歩のとき何か食べたくなって

「散歩のとき何か食べたくなって」池波正太郎

池波正太郎は捕物帖で有名だが、基本的には失われた日本を描く人であろうと思う。真田太平記をたいへん面白く読んだが、真田氏の活躍よりも、ちょっとした村の風景や山林の有様を描く文章がたくみで、目の前にそういう情景が浮かんでくる思いがした。

食通で知られる池波氏のグルメ本として有名な本であるが、やはり「失われた日本」を描いたと思って間違いないように思う。戦前から復興する戦後までの、貧しいけれどもしゃんと筋が通っていた良き時代の名店の数々。それは、この飽食の時代にあって、なおガツガツとあれがうまい、これが有名と喜ぶ精神とはまったく隔絶している。金儲けではなく、もてなしとか伝統とか心遣いを大事にしていた時代に輝いた店の話である。

もちろん、かつてと今と、この本に掲載された店は違っているだろう。

評価は☆☆。この名随筆に敬意を表して。

で、本書の冒頭に掲げられた資生堂パーラーだけど。
私は、ここに出かけて、やっぱり本書に掲載されたチキンライスを食べてみた。へー、と思った。「洋食」というものは、こういうものか。フレンチではない、なんと優しげで素朴な味だろうと感心した。
池波氏がよく食べたというクロケットも食べてみた。今、我々がイメージするミートコロッケではなくて、いわゆるクリームコロッケである。これも、典雅で柔らかいソースの味に魅せられた。
それだけでなく、訪問のたびに、実に快くもてなしてくれるボーイさんにも感動した。まあ、なんと居心地のよいことか。
なるほど、これは名店だと、やっぱりひそかに頷いたものである。

けれども。
どうも、来店のお客さんの中には、ちょっとこれは、、、と思う方々もたまさかいらっしゃるので、そういう方の隣のテーブルになってしまったときは閉口する。
水商売のきれいなおねえさんのお化粧が、明るい照明の中で浮き上がってみえるくらいはお愛嬌なのであるけど。

ああ、それで思い出した。
店の客層を見て、ご年配の品の良い紳士や老婦人が多いのは、名店の証拠だ。「年配客の多い店にはずれなし」この法則は、あてになりますぞ。

つまり、散歩をしながら良い店を探すには、店を見てはいけない。客を見るのである。このテクニック、バーやスナック、居酒屋でも共通して使える。おためしあれ。