Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ブルー・ヘブン

「ブルー・ヘブン」C・J・ボックス。

物語の舞台はアイダホ州北部の小さな町。母親の再婚相手気取りの男を快く思わない姉妹アニーとウィリアムは、男の釣り道具をもって森の奧に釣りに出かける。
そこで、数人の男が、一人の男をよってたかって射殺する現場を目撃してしまう。男達は、姉妹に視られたことに気づき、姉妹は逃げ出す。
二人がたどりついたのは、牧場の納屋であり、その牧場主は老年カウボーイ、ジェフ・ロウリンズであった。
ロウリンズの子供は麻薬の影響で精神障害をおっており、妻は離婚して出て行った。牧場の経営は危機に瀕しており、ちょうどその日も銀行家と話し合い、牧場を手放すしかないかと考えていたところだった。銀行家は、他に方法を考えてみる、と言う。
彼はロウリンズとは付き合いが長いのである。

ロウリンズは、姉妹の話を聞き、テレビで「誘拐事件」を報道しているのをみて、警察に通報しようと考える。ところが、そのテレビに映った警察官は、なんと姉妹が目撃した殺人犯人達であるという。
彼らはロス市警の退職警官であり、この大事件のために保安官にボランティアを申し出たのだと言う。
ロウリンズは、姉妹の訴えについて独自で調査を開始し、この元警官達に疑いを抱くようになり、姉妹の言葉を信じて彼女たちを保護する。
その頃、町にもう一人の退職刑事がやってくる。彼の目的は、8年前の競馬場における売上金強奪事件であった。その時、警備にあたっていた警官達が怪しいと自主調査を重ねていたのだった。
悪事がばれた悪徳警官たちは、姉妹とロウリンズと元刑事をまとめて始末しようと動き出す。
一方、ロウリンズは、自動車でなく馬で移動することで悪徳警官の不意をつき、姉妹の母親を牧場につれてゆき、彼らを再開させる。喜ぶ家族達。
しかし、そこを悪徳警官達は襲撃する。
ロウリンズと銀行家、元刑事の3人が、彼らを迎え撃つ。翌朝にはFBIが来る。それまで、家族を守らなければならない。
ロウリンズは、もう10年以上手にしていないウィンチェスターを手に取り、悪徳警官を迎え撃つ。。。

読み始めたらもう止まらない。そして、ラストは切ない。
老境に入りつつある頑固なカウボーイ、ロウリンズの戦いが胸を打つ。まさに、これぞ男の小説だ。
終盤、男達はそれぞれの事情で、苦杯をなめさせられる。
銀行家は、悪徳警官達のマネーロンダリングに手を貸していたことに。あるいは、自身の不倫の結果に。
元刑事は、刑事でありながら退職までまったくピストルも撃ったことのない腰抜けな人生に。
ロウリンズは、何もしてやれなかった家族に。

アメリカンハードボイルドは、基本的に「傷ついた男達の物語」なのだ。
その傷からの再生は、人生と同じで、簡単にいかない。それを男達は知り尽くしている。だから、彼らは自分の命を投げだし、ささやかな家族を守ろうと奮闘するのである。

評価は☆☆。圧倒的なリーダビリティ、胸を打つドラマ展開、そしてアイダホ州の美しい自然描写。悪事を働いた元警官達の、心の葛藤。
映画化が決定されたそうだが、これはすばらしい映画になるんだろうと思う。

私のイメージでは、やっぱり主役のロウリンズは、クリント・イーストウッドになってしまうのだ。あまりにも典型的なんだけど、ほかに思いつかないので仕方がない(苦笑)。

文庫で千円。しかし、これが千円なら「買い」ですぞ。
これから、秋の夜長は読書向きの季節になるんだろうが、読んで損はない。

三つ星にしてもいいんだが。あまりにも「ツボ」を心得た書きかたが小憎らしいので、一つ減らした(笑)
完成度が高すぎる小説だということで。ふつう、文句にはなりませんなあ(苦笑)