Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

森林からのニッポン再生

「森林からのニッポン再生」田中淳夫。

以前に読んだ「「割り箸はもったいない?」と同一著者による、新しい本。
森林テーマを追い続けている著者ならでは、の考察がさすがである。

我が国の森林率は67%であり、国土の2/3が森林である。この数字は、北欧と並ぶ、世界でもトップクラスの森林大国である。
しかしながら、これらの森林は、実はほとんどが戦後に植林されたものである。
そう言うと「先の大戦で、、、」と思うであろう。ところが、著者は鋭い指摘をする。浮世絵「東海道五十三次」の背景に描かれている山は、みんな禿げ山である。
江戸時代は、少なくとも日本は森林大国などではない。イメージを覆す指摘である。その理由は、簡単にいえば、当時の日本人の森林利用がそれだけ盛んだった、ということである。

また、人工林と自然林では、私たちは当然に自然林の方が様々な生物が生きているように思うが、調査結果は逆であって、適度に手入れされた人工林のほうが動植物の種類は多いのだと言う。不思議に思うが、大型動物であれば自然林が多いのだが、もっと小さな生物まで含めれば、人工林のほうが多くの種がいる、というのはなんとなく理解できるところである。

そして、現在の林業の問題点も指摘する。なんと、不思議なことに、国産材と輸入材では、国産材のほうが安いのだそうである。しかしながら、実際の住宅建設では、国産材は使われない。
建築業者にしてみると、国産材は調達に不安がある。欲しいときに手に入るとは限らないので、輸入材が多いのだという。
さらに、集成材や合板なども含めて考えると、輸入材ばかりである。
国産材の活用比率はわずか10%なので、この比率をあげることをまず考えるべきだという指摘である。
チップや合板などの活用は、もっと考えられても良いだろう。

もともと、山林は豊かなものであった。戦後でも「山林王」という人が巨額の資産を持ち、芸術家のパトロンをやっていたりするような話はよくあった。
今では「えっ!」と思うような山間の町に映画館があったりした。
しかし、林業そのものの地盤沈下とともに、山林王もまた消えていったのである。

評価は☆☆。私のような都会人が、なんとなく想像で考えている森林と、実際の森林の現場は違うのである。

なお、最近、ダム廃止などで話題の森林の保水力であるが、あまり過信するのは考え物であるそうだ。
森林は、表土に直接雨があたって流出するのを防いでくれるが、森林の根そのものが持つ保水力は、さほど高いものではないらしい。
いわゆる公共工事で言う、100年に一度の洪水を防ぐだけの力はないそうである。
これは、いわゆる森林地帯でも洪水は起こるので、理解できる話である。
もっとも、昔の治水事業のあとをみると、そもそも治水事業に「洪水を防ぐ」という意識はないような気がする。
信玄堤などを見ると、洪水になった場合に、うまく洪水を逃がすという「ダメージコントロール(ダメコン)」の発想だからである。
自然をコントロールするのではなく、うまく自然との対立を避ける、ということであろう。

独善に陥らず、多角的な視点で山林をみた書である。かなりオススメであります。