Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ケインズとハイエク

ケインズハイエク」間宮陽介。副題は「自由の変容」。
ケインズハイエクのそれぞれの主張を「自由論」として読む、という試み。

私は、経済学については門外漢である。本書はひどく難しかった。
というか、そもそも「ケインズハイエクの共通点」を見出す、という前提で読むのがいけない、と思う。
彼らの弟子達は、祖先が論敵同志であったのを遙かに超越して仲が良くないわけであるが(笑)彼らの弟子達が馬鹿揃いのわけがなく、はっきり言ってそれなりに優秀な人間達であるはずで、その彼らが不倶戴天の敵同士になっているということは、やっぱり相応の理由があると知るべきなんだろうなあ。

ケインズの主張は、早い話が「自由放任主義の終焉」である。アダム=スミス以来、自由経済というやつは「神の見えざる手」によって(このセリフは国富論にはわずかに1回しか登場しないそうであるが)放っておけばうまくいく、ということである。
その「うまく」というのは、功利主義に言う「最大多数の最大幸福」を実現できる、ということである。
これに対してケインズは、資本主義の発達によって、いわゆる実体経済を超えて投機が発展し、投機経済の過熱は必ずしも社会全体の利益につながらないので、政府による市場介入が必要であると説いた。
私的利益と公的利益の乖離、ということであり、これに対する規制なり介入の必要性は以下のように説明される。
すなわち、投機というのは貨幣があって成立するものであるわけだが、その貨幣が価値を持つのは、価格に粘着性があるからである。食事をしようとレストランに入り、食べ終わってカネを払おうとしたら既に値上がりしていた、というようなひどいインフレがあるとすると、そもそも人は貨幣を受け取らなくなるに違いない。
現実に、第一次大戦後のドイツでは、これに近い現象が起きたわけである。とすると、社会全体の利益として、価格の変動幅を小さくしておくことは、経済活動にとっては意味があるはずであり、そのような介入は正当性がある、ということになる。

一方のハイエクは、これに対して、自由論で批判する。個人の自由は、そもそも消極的自由「~をされない」で成立する。国家に介入されない、というのは基本だ、ということになる。
その上で、人間が自由であることから「予見可能性」を高める、ということが自由の進化の上で必要であると唱える。
たとえば、価格の粘着性を失わされるような投機的行動を皆が取れば、たしかに経済は一時的に混乱する。そうすると、投機に参加していた者まで含めて、皆が損失を被るだろう。しからば、以後の人間は、その自由な意思で、もう少しマシな判断をするようになるかもしれない。(ならないかもしれない)
もしも、価格の変動に対して、常に政府が介入するということになれば、それを前提として個人はいくらでも投機的行動がとれるようになる。(モラルハザードの発生)これでは、人間は進化しないし、かえって反社会的行動を行った者が「勝ち逃げ」するようになってしまう。
だから、人間の良識なりモラルなりを前提としたとき、自由を尊重して介入するべきではない。
このようなハイエクの主張は、決して自由放任を目的として無制限に称揚しているわけではなくて、その前提であるモラルを信用しているという黙認があるのである。

というような、いい加減な私の概要紹介であるが。
門外漢の話であるから、まああまり本気にしなさんな(汗)

評価は☆。なかなか難解であった。再読しても、これ以上理解できそうにありません(泣)

ただ、言えるのは、共通点というよりも、なんだか全く別の考え方をしていたのが両人である、という感想である。
存命時に、双方が論争したこともあって(当時はケインズ優勢、ケインズが死んでからハイエク優勢、で新自由主義の雲行きがあやしくなるとまたケインズ優勢)それぞれが「対照的な考え方」だという理解をなんとなくしているわけだが、180度違うより90度違う、という感じがする。
180度よりは近いというべきなんだろうけど、そもそも「ウィスキーとワインと、どっちが美味いか」を比較しても意味がないのと同じじゃないか、などと思った。
ウィスキーはウィスキー、ワインはワイン。そりゃ、それぞれ別の酒でんがな。
でも、実際はそう言っても仕方がないから「昨日はウィスキーを飲んだから、今日はワインを飲もう」なんてことになる。比べるべきものでもないんだが、つまるところ比べて、その時の気分で良さそうな方を呑むしかない。で、ウィスキー好きとワイン好きが「本日は生命の水たるウィスキーにすべきである」「なにをぬかす。ワインこそ酒の王じゃ」などとやり合っているのかもしれない。

まあ、ただの酒好きの本読みがいうことですからなあ。聞き流して、酒でも飲んだほうが良さそうです。。。