Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ジャズ・バード

「ジャズ・バード」クレイグ・ホールデン

1920年代、アメリカは禁酒法の時代であった。しかし、人々は酒を求める。酒がすべてご禁制の品になったということは、当然ギャングの取り扱い品目が増えるわけで、禁酒法の時代はマフィアが大幅に商売繁盛した時代であった。
ご禁制の品を扱うからといって、そういう人々がすべてマフィアだとは限らない。つまり、昨日まで合法だった品が、今日から禁止されたらどうなるか?ということである。
危ない橋を渡るのは、若くて野心あふれる起業家(!)だったりする。当時の酒は、医薬品としては合法であった。醸造所を保有し、薬局を保有すれば、ある程度の取引は認められたのだ。
塀の上を、すれすれに歩く商売なのである。本書の主人公リーマスは、この危ない商売に手を出し、莫大な成功を収める。
この並外れた才能をもった起業家が、その最愛の妻イモジーンを射殺するところから物語ははじまる。
そして、彼は裁判にかけられ、弁護士は彼の精神状態が異常だったと主張する。本当に彼は気が狂っていたのか?
彼が妻を射殺するまでが、物語の中で描かれる。

リーマスは、ある日、その妻イモジーンとともに、地元有力者を招いてパーティを開く。今日はすてきなプレゼントがあります、とリーマスは言う。しかし、テーブルの上には、ささやかな品物しかない。
さて、パーティが終わってご婦人方が帰宅しようとすると、屋敷の玄関から道路まで、ずーっと自動車が並んでいる。そう、当夜ご出席のご婦人がたに1台づつ、新車がプレゼントされたのだった。彼がおさめた成功とは、そういうものだったのだ。
しかし、やがてリーマスは、ある捜査官に狙われる。彼は収監されてしまう。
当初は、牢屋の中でも、関係者をすべて買収し、快適な生活を送っていたリーマスであった。しかし、捜査官によって、それも塞がれてしまう。
呻吟するリーマスは、美しく、才気あふれる彼の妻に、どんなことをしても自分を救出して欲しいと頼む。
妻イモジーンは、捜査官に接近するのだが、その虚偽の恋愛ゲームは、徐々に変質してしまうのだ。。。

この作家の作品は、以前に「夜が終わる場所」「リバー・ソロー」も読んだ。米国の正統派ハードボイルドに近いというような感想を持っていたので、本書を購入。
これはなぁ、、、という感じだった。

アメリカのハードボイルドの基本路線は、傷ついた孤独な男の再生物語である。
基本パターンは、涙なしには語れないような過去があって、しかし、主人公はタフに生きている。タフなのだが、実は泣かないだけ上等くらいの有様である。
それを本人は言わないのだが、だいたい出来事によって明らかになる。すると、そんな目にあってどうしてあんたはそんなに頑張れるのだ?!というくらいの話になる。
人生なんてそんなもんだ、という感じで終わり。そう、これが基本であって、かの名台詞「強くなくては生きていけない、優しくなくては生きていく資格がない」の強さとは、だいたい過去に向き合う強さのことを言う。
決して筋肉がムキムキだったり、ピストルを分解組み立てしてぶっ放すことではない(苦笑)誰だ、そんなことを言ったやつは。

しかし、本書には、再生の物語はない。ひたすら、つらく厳しい過去が明らかになっていくばかりである。
だんだん読み進めていくのがつらくなってくる。
美しく才能がある女性を妻にするのも、嬉しいことばかりじゃないわけだ。
だいたい、女は裏切るものだからなぁ。。。

というわけで、あまりに淋しい結論しか思いつかない。評価は無☆かなぁ。
実話を基にした小説ということで、救いは用意されていないのだが、実際の人生なんてそんなものなのかもしれない。だとすると、なおさらがっかりしちゃうわけだ。

たぶん作者が経済的に成功したので、こんな小説を書くようになったのだと思う。
そう思うと、心の底からチクショーなのであるが、それはそれで、意欲をかき立ててくれるのかもしれない
だいたい、私は、素直な羨望よりも薄暗い妬みのほうが、行動するエネルギーが出る小人なのだ(泣)他人の不幸は、そう面白いものではないのである。