Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

競売ナンバー49の叫び

「競売ナンバー49の叫び」トマス・ピンチョンサンリオSF文庫

20世紀アメリカのもっとも重要な作家、トマス・ピンチョンの代表作、らしい。

ついでにいえば、競売ナンバー49とは、この小説の中で重要な役割を果たしている「トライステロ」のマークが入った切手が競売にかかる、その番号からきている。
小説のラストシーンである。
この「49」について、巻末の解注には「チベット死者の書にある中有の期間49日からきたものであろう」と書いてある。おかげで、腹を抱えて笑ってしまった。だって、カリフォルニア州のDJの妻、という設定の主人公なんだもん。カリフォルニアといやあフォーティナイナーズ、早い話がアメフトのチーム名でしょ。それが「チベット死者の書」なんだから、深読みのしすぎで、おもしろいったらありゃしない(爆笑)
個人的には、本編の256倍楽しめるのが解注ですね。ギャグのセンスとしたら、あまりに秀逸すぎる!

あらすじは、先に述べたように主人公はエディパというカリフォルニア州のDJの妻で、彼女が不動産王から巨額の遺言の執行人に指名されたところから始まる。この不動産王は、彼女の昔の恋人だったというわけだ。
で、顧問弁護士に会いに行き、そこでちょいと浮気をし、それから遺品の切手を調べると、ヘンテコな郵便ラッパのマークを発見する。この郵便ラッパのマークは実在した「トライステロ」という民間郵便組織で、郵便を国有事業にするために米国政府から弾圧された歴史を持っている。(日本の郵政民営化とは正反対の話ですな)
トライステロは、政府と対抗する「闇の組織」であったので、色々なところに地下組織を今でも持っている。(イメージとしてはフリーメーソンとか思い浮かべると近い)
エディパは、自分が動いているのか、それともトライステロに動かされているのか、しまいには自分で区別がつかなくなってしまう。
そして、小説のラストで、問題の郵便切手を競売にかける。この切手を落札する人物こそ、トライステロの黒幕に違いない、、、というところで終わる。

難しい読み方をすると、先のフォーティナイナーズの例のようにキリがないわけであるが、どうも、この本は、いわゆるポップカルチャーの詞やらストーリーやらをごちゃ混ぜにしてぶちこみ、世事に疎い文芸評論家の深読みを待つ、というものだと思う。
そこでニヤリと笑って作者は待ち受けるので、クラシック音楽に造詣がある人ならばM・ティルソン=トーマスの解釈を思い出してくれればよい。
その文体は、暗喩に満ちているのだが、しかし、グーグルやウィキペディアを平面上に再現したら、たぶんこうなる。つまり、web2.0的な(死語か?)小説なのだと思う。
本書の登場時期(1966年)を考えると、驚異的に時代を先取りしていたに違いない。
だけど、今となっては、まあ古典の類としても、急激に色あせているのじゃないかと思う。

というわけなので、一般には推奨できないなあ。評価は無☆。
よくいえばポストモダン後なので、たしかに米国を代表する作家なんだろうと思うけれども。
アメリカは、非主流文学(大衆文学)に、よほど小説的にすばらしい作品が多い印象がある。
懐かしく読んだが、たぶん、再読はしないと思う。

時代によって役割があると思うのだな。
この小説を最初に私が読んだのは、1980年代であった。そのときは、すごく先鋭的な感じがしたし、それは間違っていなかったと思う。
しかし、今や、この小説の役割は終わっただろう。

今のアメリカの小説では、いわゆるノワール(ファンタジーの重い奴)が一番出来が良いと思う。
畑だってそうで、トマトが良かったりカボチャが良かったり大根が良かったり、年によって変わるものである。
食べ手である我ら読者としては、そのとき旬のものを賞味すればいいんではないか?と思うのである。

ぼちぼち昔の再読にも飽きてきた。次は新刊を買って読もうか、と考えている。