Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ラスプーチン


「賢者の石」で有名なCウィルソンによるラスプーチンの評伝である。
日本でも西洋でも、ラスプーチンといえば「怪僧」「ロマノフ王朝を滅ぼした香具師」「ロシアの道鏡」みたいなイメージが定着している。
そういえば、先頃、有罪が宣告された佐藤優氏も「外務省のラスプーチン」というあだ名がついているが、良い意味はないだろうことは容易に想像できる。

コリン・ウィルソンは、ラスプーチンを「アウトサイダー」だと見ている。
ウィルソンが提唱したアウトサイダーの概念とは、ただ単に「反体制」という意味ではない。歴史と言うのは、後から理屈をつけて解釈を合理的につける学問なわけだが(膏薬と理屈は何にでもつく、という)そういう場合に、ちょっと処置に困ってしまう人物が出てくる。
歴史というのは、結果が分かっている後世の人間から見れば、結論に向かって必然的に進行していくように見える。ところが、たまに、そういう解釈をすると、はまらない人物が出ているわけで、そういう人物をアウトサイダーとウィルソンは定義づけた。
つまり、そのときの「体制」のアウトサイドではなくて、「歴史の必然」に対してアウトサイドにいる人物である。

ラスプーチンに対する一般的な評価とは、打倒される運命のロマノフ王朝の最後の混乱、壊乱ぶりの象徴であって、一介のペテン師に王朝はだまされていたので、彼こそロマノフ王朝が滅亡すべき段階に至ったことを予言していた、ということになる。
これに対して、ウィルソンは、丁寧に資料を漁り(この人の資料読みの能力はへんなところがとてつもない)
ラスプーチンの出現いかんに関係なく、ロマノフ王朝の命脈は尽きていた
ラスプーチン自体は、素朴な貧しい農民の出身であって、字を書くにも難儀するほどであり、しかも彼が私財をためこんだ形跡がまったくない
ラスプーチンの評伝は、彼の死後、関係者が金儲けのためにでっちあげたものばかりで、明らかな記載ミスがいくつもある
ラスプーチンの治癒能力は本物だった可能性が高い。いわゆる「癒し」の能力を身につけていたと思われる
ことを指摘している。

なぜ、ラスプーチンは歪められたのか?
レーニンにとっては、ラスプーチンが化け物であればあるほど、都合が良かったのである。

評価は☆。なかなか面白く読んだ。

我々は、歴史を学ぶだけだが、その我々が「歴史」と呼んでいるものは、事実そのものの集積ではない。
事実は無数にあり、そのうち、何かの意図をもって、それらの事実が解釈される。その解釈を、我々は「歴史」と呼ぶ。
だから「歴史に学べ」というのは逆理である。歴史は、何かを「学ばせる」ように意図されたものなのだ。

ある日、我々はそれに気づく。それはアウトサイダーによってである。

私も、かつて、若かりし頃、アウトサイダーに憧れたことがあった。
今では、ただの瓦礫である(苦笑)
ラスプーチンが怪物であれ、ただの素朴な農民であれ、どちらにしても、私にとっては遙かな存在としか言えない。
考えてみれば、世の中の人が全員アウトサイダーでは困るわけである。それじゃあ、アウトサイダーの存在意義がないではないか。

アウトサイダーにも、歴史を学ばせようとする者も、碌々たる人生には関係ない。
ヘタに、神やら権力やらに使われる存在でなくて良かったと思う小心者なのであった(苦笑)