Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

貧乏は金持ち

「貧乏は金持ち」橘玲

橘氏は、前書きでこう言う。

「みんなが好きな仕事に就けて、毎年給料が上がっていって、会社は一生社員の面倒を見てくれて、退職すれば悠々自適の年金生活が待っていて、病気になれば国が下の世話までしてくれる──そんな理想郷を勝手に思い描いて、その夢が裏切られたと泣き喚くのはそろそろやめよう。そんなうまい話がないことくらい、幼稚園児だって知っている」
さらに、続けて指摘する。
「これらの問題を、非正規雇用の問題だといったり、小泉改革の責任だとするのも嘘である。小泉政権発足時の2003年大卒内定率は、戦後最低の55.1%であった」
ついでにいえば、2000年の小渕政権の時、求人倍率は過去最悪となり、小渕首相はケインズ政策をとって一気に80兆円もの国債を新規発行して積み上げた。その「乗数効果」がいかなるものだったか?「世界一の借金王」となって巨額の国債を発行したあげく、その2年後には大卒内定者が最低になった、というわけである。
世間はこれを「就職氷河期」といった。
もしも小泉政権が非正規雇用の規制を緩和しなかったら、失業率はさらに高くなったはずである。そうすると、余計に格差が開いただろう。
(本当は、この背後には世代間会計における問題が隠れている)

ところで、テレビに出ては先鋭な政府批判をする文化人(?)だか評論家だかに、佐○信という人がいる。
この人の発明した言葉が「社畜」である。会社に依存してエサをもらって忠誠をつくす、そんなもの家畜じゃないか、とサラリーマンを非難したのだ。
その彼が、今テレビでなんと言っているだろうか?
「企業は、非正規社員を、正規雇用すべきだ。それを進めるのは、当然政府の責任だ!」と激しく攻撃しているのだ。
じゃあ、なんで「政府はフリーターを社畜にするようにすべきだ」と言わないのだろうね。自分の発明した言葉なんだからさ(笑)
ま、みんなそんなことはすっかり忘れて「そうだそうだ」と○高信の言葉に頷いちゃったりしてるんだろうかね。(私は、顔も貧相なら心も貧しい奴だとしか思っていないが)

橘氏は、そういう「社畜礼賛」にみんなが染まる風潮を「おかしい」と言う。「もっと、いろんな生き方があっていい」
(そういえば、くだんの評論家も、フリーターが出現したときは、働き方の多様化、などと言ったりしていたんだよ)

そこで、橘氏は、ひとつの思考実験として、サラリーマン(つまり、社畜!)が、一人法人を立ち上げて節税したら以下に余裕が出来るか?を試算してみせる。
中小企業のオヤジが金回りの良い理由である。
これは、実践するかどうか、ではなくて、あくまで一つの実験として読むべきだろう。
著者も書いているように、最大の問題は、いかに節税するかではなくて、いかに市場から儲けるか?である。生涯賃金2億円のサラリーマンが、本当にそのカネをきちんと稼ぎ出せる力があるなら、サラリーマンという商売は悪くないと私は思っているんだがなあ。

評価は☆☆。例によって、実に面白い。
国家は一つの擬制だから、その歪みを利用するのは、方法として考えても良いことである。
そのほか、法人実態説と法人擬制説の対立の説明などは秀逸で、法学部の学生さんにもお奨めできる。

ところで、企業向け営業マン研修で「夢を描け!事業家になるんだ」などと言って、洗脳まがいの営業研修をやることがある。
私自身、インストラクタをやっていたので、カリキュラムについては知っているのだが。
純情なサラリーマン諸氏に伝えておきたいのだが、そもそもスキルの問題として「事業家にあって、サラリーマンにないもの」はなんだろうか?
はっきり言えば、それは「会計、税務、ファイナンス」に関するスキルである。
サラリーマンは給与天引き、年末調整だから、これらの起業家として必然の仕事を、会社に丸投げしている。
「頑張って、販売する」のは、サラリーマンでも事業家でも、当たり前に必要なスキルでしかない。事業家になりたければ、金融関連の知識がなければお話にならないのだ。
政府系金融機関を丸め込み、信用保証協会の保証をとりつける書類をでっちあげて、はじめて起業家になれるのである。
ただの営業マン研修が、事業家になる方法のわけがないじゃん。常識で考えてみてくれ。
そういう研修をやっていた張本人の私が言うのである。

小学生でもわかる理屈って、かなり大事なもんだと思いますなあ。