Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

星守る犬


naznaさんが上半期ベストコミックにあげておられたので購入。
帯には「号泣しました」のような惹句が踊っている。
「そうかんたんにはいかぬ、ワハハ」と余裕で読み始めた。
で、読了。はい、しっかり泣いてしまいました(苦笑)
中年男の涙腺は、やっぱりゆるいもんですなあ。

話はすこぶるシンプルで。
健康を損なったのが原因で職を失い、家族を失った中年男が、残されたわずかな全財産をもって死出の旅に出る。最後の家族は愛犬一匹。その愛犬は、主人の死がわからないので、ずうっとそばにいる。
やがて、愛犬にも最期のときがやってくるのが前編。

その亡骸を発見した役場の人が、形見をもって彼の最期の足取りをなぞっていくのが後編。

別に、難しい話じゃないけれども。

後書きに「この主人公は決して悪い人ではなく、ただちょっとだけ不器用なだけ」と書いてある。
その通りである。
そして、そういう人は、実は無数にいる。つまり、特別な人ではない。誰でもが、ふとしたきっかけで、このような運命をたどる可能性を持っていると思う。
この本を読んだ人は、自分の運命とすぐ隣り合わせな、この現実に泣くのではないかと思う。他人ではなく、自分の運命のはかなさに気づくのである。

評価は☆☆。深い漫画である。
もはや「たかが漫画」という人はいないだろうと思うが。
この水準まで達していると、文学作品というべきだろうと思う。

心に残る名シーンがあって、前編でいよいよこときれる寸前の主人が、愛犬のために最期の力でクルマのドアを開けてやるのだ。既に死相が浮かんでいる彼の顔はすっかり変わっており、そこに満点の星が輝く。最期は、みな宙へかえる。
死は、お金持ちも、人気者もなく、ただ一人で宙へいく。成功も失敗もなく、勝敗もない。よく、死ぬ前に満足して心残りがないように、などというが、死は死である。そして、すべては過去である。
それは、実は最期の救いかもしれないのである。

シューベルトの未完成の第二楽章が、そういう意味だと初めて知ったときは驚いたものだった。
第一楽章の、恐ろしい悪魔の哄笑のごとき主題が繰り返され、苦しみと恐怖が描かれる。それは、実は現実の世の中という修羅である。第二楽章で、しかし、どんどん旋律は軽く、透明になっていって。。。静かに天上の音楽になっておわる。

この漫画で、私はシューベルトの未完成を思ったのである。
続編の話があるようだが、もうこれで良いと思うのだ。このまま、静かに終わっていいのである。