Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

浴槽で発見された手記

「浴槽で発見された手記」スタニスワフ・レムサンリオSF文庫、絶版。

学生時代以来の再読である。
私は、レムの作品はあまり熱心に読んでいない。もともと、ロシヤ系の作家とは肌合いが合わないのである。
そんな私だが、しかしこの「浴槽で発見された手記」は面白かった。

物語は、はるか未来に、新種の微生物が繁殖して、世界中の紙が滅びた未来の記録として書かれている。
本書によれば「パピル時代(パルプに記録していた時代)」の遺跡、ある都市の浴槽から偶然に発見された手記である。
ポンペイのように、なぜか突然コンクリートが崩落して生き埋めになったので、手記が残ったということだ。
そして、その手記の公開という形で物語はすすむ。

手記の主人公は、自分でもワケのわからない世界に突然放り出される。
そして、偉そうな人から「司令書」をもらう。
すると、彼は突然、すごい指令を持った人物として扱われてしまうのだ。
しかし、彼自身も、指令の内容を知らない。他の人物も、指令の内容を知っている者はいないようである。
なのに世界が成り立っているのは、すべて世界は「暗号」である、という解釈が成り立っているからだ。
指令を受けた人物の言う言葉は、すべて暗号で意味あるものとして重く受け止められ、それによって人が突然自殺したりする。
登場人物はすべて暗号で会話しており、すべての登場人物がスパイである。
最初は主人公だけがスパイの任務を帯びていると思われるのだが、そのうちに、なんとこの世界の住人全員がスパイだったとわかる、という仕組みである。
最後に、彼に対して「君を密告するが、しかし、それは裏切りではない」という人物が現れる。
彼は、浴槽で自殺しているのが後ほど発見される。
死だけは、偽りではない。主人公は、この密告とスパイしかいない世界の中で、唯一真実を話してくれた人物が居たと知る。
しかし、死んだ後でしか、その事実を知りようがないことも悟るのである。
そして、その唯一の友(死んでしまった後だが)を、彼自身が気づいたら密告しているのだった。。。

評価は☆。啓示に富む小説である。
物語的なおもしろさはないので、読んでいて楽しいという類の話ではない。しかし、考えさせられる。

我々は、生きているだけで、毎日嘘をついて生きている。
「次は頑張ります」「誠に申し訳ない」本当にそうでないときでも、そう言わなきゃ仕方がないのだ。
日本では、それを「大人の対応」というが、遙か後の世代から見たらどうだろうか?それはみんな「暗号」つまり、何かしら裏のルールに基づく会話だと思わないだろうか。
そういう「暗号」を話している人間で成立する社会は、スパイだけが暮らしている妙な社会だとレムは比喩してみせたのだろうと思う。レムは暗喩を好まないというが、これは暗喩じゃなくて、ただのオーバーな表現なのじゃないかな?
もちろん、当時のソ連に関する批判も含まれているだろう。

それにしても。
生きていくのは大変ですなあ。
そういう思いだけでも、みんなで共有できないものかと思うが。
その「思い」だって、千差万別なんだよねえ。。。