Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

方舟

「方舟」しりあがり寿

この奇才漫画家が、ミレニアムの年に渾身の力をこめて問うた一作。
偶然、古本屋で発見し読んだのであるが、これはすごい。

舞台は今の日本。いや、世界。
雨が降り続き、一向にやまない。テレビは、おちゃらけバラエティで「洪水で水泳大会」をやる。「世界の終わりです」という通行人にむかって「はっはっは!それですよ」と明るくリアクション。
そして、水泳が始まる。元オリンピック選手は、華麗に洪水の中で泳ぎ、流れてきた自動車に挟まれてぺちゃんこになる。。。

歯磨きメーカーは、「ノアの方舟に乗れる懸賞」を売り出し、これが大ヒット。
ところが、一向に雨はやまない。そして、ある日ついに、方舟に暴徒が現れる。
「懸賞ですから、当たった人でないと乗れません」しかし、群衆は、どんどん乗り込む。

食料も尽きた方舟は、ただただ水面を浮遊する。
そのさなか、方舟の中で巡り会ったカップルが結婚式を挙げようとする。男が怒って殺人を犯す。
「この期に及んで、希望だと!」
彼は言う。「愛だの、夢だの、希望だの、なんの役にも立たなかった」
「私たちは、ただ欲しいと言って平和に生きていけば良いはずだったのに」

高い山にある山村に、息子夫婦が帰ってくる。
「おお、久しぶりだな」老親が嬉しそうに迎える。
村は、ひさしぶりに、明るい声があちこちで響く。
やがて、息子が言う。「他の家も静かになったね」
父親が言う。「ああ、ほかの家は、うちより低いからな。さ、みとらんで、こっちで一杯やらんか」
最後の家族の酒宴であった。
こんな切ない場面を、ほかに知らない。

評価は☆☆。
漫画は文学を超えた、と思う瞬間がある。この作品は、間違いなくそうである。
見つけたら、是非とも買って一読して欲しい。

このやまない雨は、我々の人生そのものなのである。