Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

夢の蛇

「夢の蛇」ヴォンダ・マッキンタイア

すでに早川SF文庫でも刊行されているが、もちろん私はサンリオSF文庫でもっているのだ。だからなんだって言われれば、別になんでもありませんが。
懐かしい作品だが、今読んでも充分におもしろい。

主人公は女性治療師でスネークという名を持つ。
世界は、核戦争後で荒廃しており、人類の高度な文明は失われている。
医療は、治療師とよばれる人々が行っているが、彼らが使うのは3種の蛇である。
この蛇たちは、品種改良が行われて、各種の解毒や免疫を作り出すことができるようになっている。
その3種の蛇の中で、もっとも少なく貴重なのが「夢の蛇」とよばれる小さな蛇である。
この蛇の働きは、既に死が避けられない人の痛みや恐怖を和らげる。ちょうどモルヒネのような働きだろうか。

物語の冒頭、治療師スネークは、死に瀕した一人の少女を治療する。
病状が重いことをみてとった彼女は、夢の蛇を使う。蛇は、人の上で小さなとぐろを巻き、苦痛を緩和するのである。
ところが、その光景を見ていた少女の家族が、恐怖心のあまり夢の蛇を殺してしまう。
スネークは、大事な蛇を失ってしまった。
治療師の本部に帰れば、夢の蛇を失った者として、もう治療師の仕事をさせてもらえなくなるかもしれない。
彼女は、自力で夢の蛇を探そうと決意する。
途中で出会った「都市」の女性は、核汚染によって死んだが(苦痛を夢の蛇で癒すことができなかったが、彼女は幸いにも即死に近い死に方をした)彼女の故郷である「都市」に行けば、夢の蛇が手に入れられるかもしれない。
中途の町で、町長を救い、顔に傷跡のある少女を養子にし、ようやく「都市」にたどり着いた彼女だが、しかし「都市」に拒絶されてしまう。
行き場所を失った彼女は、砂漠の嵐を避けて命からがら南部の郊外まで逃げ延びる。
そこで、今まで旅の途中で何度も彼女の荷物を物色していた男を捕らえる。この男は、夢の蛇が作り出す麻薬中毒になっており、スネークの夢の蛇をあさっていたのだ。
スネークは、男に夢の蛇を失ったことを理解させ、逆に男が中毒になった「こわれたドーム」に案内させる。
そのドームは、明らかに異世界のものであった。
そして、そこのは確かに夢の蛇が居た。スネークは、夢の蛇の繁殖の秘密を理解する。
ラストシーンで、彼女は「壊れたドーム」から、危機一髪のところで脱出するのだ。
外では、ある人物が彼女を待ち受けていた。

ものすごい想像力とファンタジーあふれる小説である。
この世界観は、たとえば宮崎駿の「ナウシカ」などと非常に似ている。日本人好みである。
もっとも、本書がヒューゴー賞ネビュラ賞のダブル受賞をしたのが1978年である。
ナウシカ」は84年公開だから、もしも世界観を参考にしたのなら、ナウシカのほうである。
最近では、この手の設定は珍しくもないのだが、当時としては充分に斬新だったろう。

女性作家らしく、旅するスネークにはロマンスもあるし、様々なイベントも起こる。
顔の傷跡を気にして、心ない養親に迫害を受ける少女に、スネークは一緒に行こうと訴える。
そのときに、彼女はこう思うのだ。「この子は、本当は自分の力で充分生きていけるのに、それを知らない。そして、不幸な生活を続けようと願っている。一人で生きていくほうが遙かに安楽なのに」。

これは、男女関係でも、あるいは雇用関係でも、同じことがいえるかもしれない。
独力でやっていったほうが楽なのに、なぜか、束縛を「仕方のない運命」と考え、自分の力を過小評価してしまうのである。

勇気を持ちたい人にお勧めできる。評価は☆☆あたりで。

とはいえ、実生活で勇気を持つのは、並大抵のことではない。
「う~ん」と。
そのあたりが、物語と実生活の違うところである。
どちらかと言えば、やっぱり若い人向けの本なのかもしれないなあ。