Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

銀座のカラス

「銀座のカラス」椎名誠

椎名誠の自伝的小説。前回読んだ「哀愁の町に霧が降るのだ」の続編であるが、主人公の名前は「松尾」とされている。
サラリーマン駆け出しの主人公は、いわゆる業界紙の世界に入る。流通系紙であり、デパートを主に扱っている。
そこで、どういうわけか主人公は「編集長」に任命されてしまうのである。
先任の編集長が、病に倒れてしまった結果、唯一のアシスタントだった主人公がいきなり編集長に昇格してしまうのだ。
この新聞社の社長は、ややロマンチストであり、若い人間を抜擢したいという望みがあって、それに合致したのである。まさに人生はタイミング、ということ。
突如の大命に、もちろん主人公は驚くが、そこでなんとかしようと必死に考える。
色々な取材先の人々に啓発を受け、自分なりの理想像(それは、流通先進国のアメリカの業界紙の日本版をつくることだった)を掴み、まさに夢を実現しようと邁進するのである。
ガード下の飲み屋で、昼間から酒をひっかけつつ、この構想を得ていくところの描写は素晴らしい。
まさに「よし!これだ」という気合いがびんびんと伝わってくるような文章である。

評価は☆☆。
サラリーマン経験がある人であれば、新しいプロジェクトを前にして「よし、やるぞ」と燃えた経験があるものではないかなあ。
思わず、「若かりし頃」を思い出して、ちょっと恥ずかしい気がする。そのレベルまで書き込まれているのである。これは凄い。

人口減少社会が到来し、日本経済の規模もそれにともずれて、縮小していく傾向にある。
充分に所得水準があがった我が国は、金融や投資を中心とした経済には乗り遅れ、すでに一人当たり平均所得でもシンガポールの黄塵を廃している。
バブル時代には考えられないことであるが、もはやそういう意味では、日本は先進国の一員ではあっても、トップグループからは後退していく運命にある。
であるから、「脱成長モデル」も、それなりの説得力を持つわけだ。
しかしながら、それはマクロでみるとそうなのであって、ミクロな個人レベルのビジネスがそうだ、という意味ではない。
個々人のアントレプレナーシップが、時代を生んでいく原動力であることには変わりがないのである。
私も、個人商店と変わらない規模の中小零細企業みたいなものだが、そういう動きと無縁ではいられない。
そんなふうに考えさせてくれる本である。お奨め、です。