Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブス 驚異のプレゼン」カーマイン・ガロ。副題は「人々を惹きつける18の法則」。

アップルの創業者にしてCEOであるジョブスは、その卓越したプレゼン能力で有名である。
本書は、そのジョブスのプレゼンのノウハウを解説した本である。

本書では、冒頭に「アナログから」はじめよ、と説く。
プレゼンをするというと、まずパワーポイントの作成から始める人が多い。これがいけない、と著者はいう。
ジョブスは、マック派なので(当たり前だ)キーノートを使うが、しかし、キーノートをいきなり入力などしない。
まず、プレゼンで何を訴えるか、それを考えるのは神と鉛筆だという。紙は、アメリカではときどきナプキンが使われる(笑)

いかなる良いアイディアも、そのアイディアで人が動いてくれなければ(それはお客様や販売店さん、あるいは協力業者だったりプログラマーだったりする)形になることはない。
プレゼンの目的は、人に説明することではなくて、その人を動かすことである。つまり、説明ではなくて訴え(訴求)が必要なのである。

訴求するには、ストーリーを作る必要がある。
今の問題は何なのか?何を解決しようとしているのか?
ジョブスは、その問題を、しばしば敵にたとえる。アップルは正義の味方であり、その敵をあざやかに撃退するのだ。
アップルのCMで「僕はマック」「僕はワーク」というのがあった。アップルのマックは、創造的て楽しいが、ウィンドウズPCはワーク「業務用」で楽しくない、というわけだ。
この場合、問題は「パソコンって楽しくない」であり、それをもたらす敵が「ウィンドウズ」であり、味方が「マック」である。

また、ジョブスは「3」を多用する。
3つの機能、3つの改革、3つの製品発表など。「3」という数字は、人間の頭に残りやすいのだそうである。
なるほどと思いあたるところが多い。

評価は☆☆☆。
実に役立つこともさることながら、単なるハウツー本を超越した「読み物」として、非常に優れている。
ヘタな小説を読むよりも楽しい。それは、本書にこめられた情熱である。

ジョブスは、自分のしたいこと、内なる声に耳を傾けるべきだと説く。それをやっていれば、自然にプレゼンは説得力を帯びるだろう。
プレゼンは、自分のやりたいことを実現させるための手段に過ぎない。うまいプレゼンをすることは、良い手段であるけれども、それが目的ではない。
「他人の人生を生きるべきじゃない」とジョブスはいう。自分の内なる声に耳を傾けて、情熱を燃やすべきだ、と訴える。
このようなテーマは、しばしば優れた小説にも見られる共通のものだ。それが、本書を小説のように、面白く読み応えのあるものにしている。

私も、仕事では、情熱を燃やすべきだと思っている。アイディアと努力で成長する過程が好きなのだ。
不安に耐えて、明日の仕事に全力をかける日々は、充実感に満ちている。

しかし、プライベートでは、また違う考え方をもっている。
誰しも、好きなことをしたから、必ず成功するわけではない。実際には、傷つき倒れる人も多いのだ。あるいは、あまりの恐怖に足がすくむ人も多い。
日本では、起業家の失敗について、世間は極めて冷淡で、すべてを失うようになっているから。
「世の中は結果がすべて」で簡単に割り切れないし、成功者はしばしば運が良かっただけである。
傷ついた人生を再生するためには、色々な支援(物質だけではなくて、精神も大いに大事)が必要だ。
私は「墜ちた人」を、決して悪くは思わない。むしろ、今の自分の立場からすると、お仲間だろうと言われるでしょうが(苦笑)

読んで損はない一冊として、また手元に残しておきたい本として、お奨めの一冊であります。