Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

情状酌量

情状酌量」N.T.ローゼンバーク。

主人公のリリーは、結婚後に独力で法律を学び検事になった努力家の女性である。
夫は、そんな彼女を支えてきたが、彼女が自立できるようになると、愛情は冷えてしまった。
二人の間には一人娘があるが、彼女は13歳で、そろそろ難しい年頃であり、母親を避けるようになってしまった。
そんな中でも、リリーは検事として実績を積み、昇進を控えている。

そこに、リリーによって告訴されていた男が、証拠不十分のために釈放されてくる。
彼は、過去にもなんども婦女暴行を働いてきた常習犯である。
男は、リリーに対して逆恨みしており、リリーを尾行する。

ちょうどリリーは、夫との間が難しくなっているので、別居に踏み切ったところだった。
娘を新居に初めて呼んだ日に事件は起こる。
男が新居に侵入し、リリーの目前で娘をレイプしたのである。

男が去ったあと、リリーは娘に何も心配することはないという。
放っておけば、男はまた同じことを繰り返すかもしれないし、仮にそこで逮捕して刑務所に入れても、数年で出てきてしまうのだ。
検察官であるリリーは、誰よりもそのことを良く知っている。
リリーは、男を自分の職権ファイルで調べて、銃を持ち、男の住居に深夜行く。
男を発見したリリーは、男を射殺する。車のナンバーは、巧妙に改変しておいたが、その工作現場を娘に見られてしまう。

リリーは娘とともにレイプされたことを警察に届けるが、それが原因となって、リリーの昇進は見送られる。
彼女は裁判官への転身を希望していたが、自らがレイプ事件の被害者であっては、同様の事件について冷静な判断が下せないだろう、という理由による。
どうして事件の被害者が、さらに将来の夢まで絶たれなければならないのか、とリリーは嘆く。
しかし、さらに大事なことは、被害に遭った娘の回復であった。
リリーは、過去に自分も同様の経験をしていたことを生涯はじめて娘に話し、二人はゆっくりと再生していく。
そこに、警察から連絡が入る。暴行事件の容疑者を発見したという。
犯人を射殺したことを知っているリリーが容疑者をみて驚いた。なんと、リリーが射殺した男にそっくりだったのだ。
では、自分が射殺した男は、犯人ではなくて、他人の空似だったのか?
リリーは、無実の男を射殺したのではないかという自責に悩みはじめる。。。


年末休暇は、久しぶりに帰省しながら、のんびりと読書。
そのうちの1冊である。
著者は元女性警官だそうで、捜査に関する描写がリアルである。
評価は☆。
なかなか面白い。

レイプ事件というのは、たいへん悪質な事件であって、被害者に深刻な心身のダメージを残すのは言うまでもない。
本書は、そういう傷からの再生物語である。
ミステリというよりも、純粋な家族の物語であって、後半の母娘のやり取りは胸を打つ。

アメリカの陪審員がなんと言うか分からないが、目前で娘を暴行された母が復讐の銃弾を放ったことでは情状酌量の余地は十分あるだろう。
ただし、それが別人だったらどうか?
その別人が、実はさらにほかでもっと凶悪な事件を行っている犯人だったらどうか?というのが、本書の裏のテーマである。
ただし、そのテーマは巧妙に隠されているのだけれども。

著者の結論は、本書のラストに示されている。
その考えに、私も同感なのである。