Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

HARLIE

「HARLIE」デヴィッド・ジェロルド。サンリオSF文庫、絶版。

大学時代に読んで、面白いと思った本。久しぶりに再読したら、やっぱり面白かった。

主人公はオーバースン。心理学者で、仕事はなんとコンピュータの教育係なのである。
というのも、彼が勤務する会社では、まるで人間のように思考するコンピュータ「HARLIE」を作ったからだ。
HARLIEは、タイプを通して人間と会話することができ、人間の要望に基づいてプログラムを作り、その回答を与えることができる。
コンピュータそのものと、人間というあいまいな存在の仲介役がHARLIEなのだ。
生まれたばかりのHARLIEは、膨大なデータを持ち、決して忘れることがないので、急速に成長するのだが、人間の思考様式には弱い。
だから、オーバースンがそれを教育しているわけだ。

ところが、このHARLIEに問題がおきる。
HARLIEを動かしておくには、膨大な費用がかかる。会社は、それは無駄ではないかというのだ。
つまりは、リストラ対象にあげられてしまった。
オーバースンは、HARLIEに「自分の存在価値を示すように、利益をあげるように」という。HARLIEは尋ねる。
「ナゼソウシナケレバイケマセンカ?」
それが君の存在理由だから、とオーバースンはいう。HARLIEはいう。
「ワカリマシタ。ソレデハ、アナタタチ人間ノ存在理由ハナンデスカ?」
オーバースンは答えられない。

HARLIEはオーバースンの恋愛相談役になり、あるいは相対性理論を超える大統一理論の構築の手伝いをする。
その一方で、GOD計画をつくる。GODを名づけられた巨大コンピュータをHARLIEと接続すれば、あらゆる問題を解けることになる。
会社の利益の上げ方から、世界平和の方法まで、すべて、だ。
しかし、膨大な予算がかかる。HARLIEは、その予算が実行可能であることを示すが、重役会は納得しない。
重役会ではHARLIEのプラグを抜く議論が進んでいく。プラグを抜く=HARLIEのすべての活動が停止する。彼は死ぬのである。
HARLIEはいう「死トハ何デスカ?」
その瞬間に、どこまで電源が残っているかだろう、とオーバースンはいう。HARLIEは答える。
「ソレナラ、ナニモワカラナイホウガマシデス」
ところが、重役会の直前に、HARLIEが支援した重力理論が正しいことが話題になり、その理論を構築した学者が重役会に応援に現れる。
彼は、親会社の大株主であった。
「この計画に賛成するか、諸君が重役をやめるか、どちらかだ」
かくて、HARLIEは生き延びたのである。
しかし、最後になって、HARLIEが作ったGOD計画には、致命的な弱点が存在することをオーバースンは知る。
なぜ、HARLIEはそんなことをしたのか?
「死ニタクナカッタノデス」「愛シテイマス」HARLIEの声がむなしく響く。。。

人工知能ものでは、「2001年宇宙の旅」が有名である。狂ったコンピュータという定番のテーマである。
しかし、HARLIEは違う。狂っていないのだ。ただ、HARLIEは、人間的に施行する。
そこから導き出されたものは「自我」そのものであり、それは人間自身の矛盾でもある。
コンピュータであるHARLIEは、煩悩までは持てるが、彼には宗教がない。
そういう存在の落ちるところを、余すところなく描き出してみせた。
まさに傑作だろうと思う。

評価は☆☆。
読んで損はない作品。ただ、絶版なのである。
こんな作品が再発されないわけだから、日本の書籍市場もさびしいものだねえ。

本書を読みながら思ったのは、HARLIEは日本人の暗喩になるのではないか、ということだった。
倫理はあるが、宗教はない。それは、まさに日本人のことじゃないだろうか。
「正しい答え」を探すわれわれの試みは、最後にHARLIEと同じ陥穽におちるような気がしている。