Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

向かい合う

本来ならば、もっと喜び、大騒ぎになってもよいはずである。
何がといえば、内閣府の発表によって、12年1-3月期の実質国内総生産GDP)が前期比+1.0%。
さらに、名目成長率が+1.01%で(13四半期ぶり)数字上では「デフレに歯止めがかかった」からである。

しかし、実際の生活実感で「景気回復」だと思っている人は少ないのではないか、と思う。
内閣府の発表だから「増税法案前のアリバイづくり」というのは、少々うがった見方ですかね(苦笑)

この要因だが、震災復興関連の公共事業が+5.4%となったのが効いているそうだ。
しかし、民間の設備投資は-3.9%。
公共事業のカンフル剤によって成長しているようにみえるものの、実は企業は国内に見切りをつけ、海外脱出に忙しい、というのが実態なのである。
ケインズ乗数効果を唱え、数学的に証明されたように、公共投資の波及効果は20倍に及ぶ。
しかし、である。
自由な貿易為替体制のもとでは、その乗数効果は海外に流れてしまうのである。
少々いじわるな言い方をすれば、日本政府の税金で海外の景気をよくしているわけだ。
国内の投資環境をよくしない限り、国内の景気がよくなったと皆が実感することはない。
そう思うと、至極当然のことである。

これから夏に向けて電力不足が懸念されているが、何よりも困るのは、工業用電力の不足による製造業の生産低下だろう。
マクロ的に見れば、それでもいいのかもしれない。おそらく、今の日本は需要不足であり、明らかに供給過多である。
しかし、その供給は、多く海外からやってくるから、国内産業が低下すると、そのまま貿易収支の悪化につながる。
海外に資源を頼る日本としては、少々まずい事態なので、なんとかこれを防ぎたい。
そうすると、原発再稼働という議論が出てくるわけだ。
放射能によって将来どの程度の影響が出るかも心配だが、景気の落ち込みは年間3万人の自殺者をさらに確実に増やすからである。
まずは目先の死者を減らすのを優先すべきという主張は、説得力がある。

しかし、一方で「どのみち、行きつく先は一緒じゃん」という、ひどくクールな経済学者もいるのである。
原発を動かせば、地方のシャッター通り商店街がなくなるのか?地方は再生するのか?
言うまでもないが、答えはノーである。残念だけど。
どんどんさびれている町に、かろうじて点滴を打つような政策で、地方経済活性化の特効薬でもなんでもない。
それよりも、日本経済そのものの健康を取り戻す政策を、この機会に考えたほうがいいのではないか、という話である。
かといって「じゃあ、こうしましょう」という結論が見えているわけではないんだけど。

資本主義経済というのは、利潤を追求していくものだが、その利潤はつまるところ「価格の歪み」にある。
海外と日本の労働力や生産コストの間に「価格の歪み」があるうちは、この流れをとめられない。

今まで、「日本の国債は日本国内で消化されているので安全」という話があった。
しかし、昨年の国債の国内消化率は91%まで落ちている。
1割ちかい国債を海外勢が買うようになった。むろん、米国ではない。最大の買い手は、ご存じ、GDP世界第二位に躍り出た支那である。
多くの支那人が「遅かれ早かれ、尖閣支那のものになる」と考えているのは、この国力の違いによる。
買い進んだ日本国債を「一気に売るぞ」と脅されたら、もうおしまいなのである。「はい、すいません」というほかない。
勝負あった、ということなのである。
東京都が尖閣を買うのは、せめてその時、支那から金をもらって都民に還元しようと見切ってのことかもしれない(苦笑)

かつて、松下電器がカーラジオの下請けをしていたころ、60%のコストダウンを要求されたことがあった。
松下幸之助翁は、その発注元に訪ねていった。
てっきり文句を言われると思った発注元が、こわごわ迎えると、松下翁はこういった。
「60%のコストダウンを要求していただき、ありがとうございました」
発注元はわけがわからず、その理由を聞いた。松下翁はこう答えた。
「もしもこれが10%、20%やったらどうでしょうな。みんな、一生懸命やればどうにかなる、頑張ろう、そういう話になったんとちゃいますかな。
そやけど、60%は、一生懸命頑張っても、土台無理な数字ですわな。そうすると、これは、もうラジオの仕組みそのものから、考えなおさんことにはできませんやろ。
もしも60%のコストダウンができるラジオができたら、日本中のカーラジオは当社が受注できますわな。
ああよかった、ものを考えん10%やなくて、60%とよう言ってくださいました。おかげで、ものを考えますやろ。
せやから、ありがとうとお礼にきましたんや」

根本的にものごとを考え直す。
なにをその機会にするかは、まったくそれを受け止める人の心次第であると思うのですなあ。

付記)この後、実際に松下は60%以上のコストダウンに成功し、日本のカーラジオ市場でトップシェアを誇った。