Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

夢があるなら追いかけろ

「夢があるなら追いかけろ」エルンスト・マルムステン。副題「世界を相手に勝負した企業家の成功と失敗」。

史上最大の破たんをしたインターネットスタートアップは何か?
色々な候補があるのだが(苦笑)本書で語られる「boo.com」は「etoys.com」と双璧だろう。
なにしろ、6か月で1億8800万ドルをとかした、という素晴らしさである。
なお、好敵手の「etoys.com」は、IPO前に2億200万ドルを調達し、上場して1100億ドルの時価総額を記録し、1億6600万ドルを市場で調達して破綻した。こうなると、破綻させたほうが偉大というべきだろうか(苦笑)。

当時のレートでだいたい1ドル=100円とすると、1億8800万ドルで188億円でしょう。
これを6か月で消費するわけだから、だいたい月30億円くらい食っちゃったことになる。
これが、ろくに売り上げもない「スタートアップ企業」なんだから、経営側も投資家も、すごいとしか言いようがない。
欧州各国と米国にオシャレなオフィスを展開し、当時最先端の3Dグラフィックを使ったサイトを各国語で開発してれば、このくらいの金はすぐにとけてしまう。
彼らは、これでも緊縮財政を行っていたのだから。

創業者のエルンストとカイサは学校の同級生であった。
彼らは、ひょんなことから再会し、まず出版業に乗り出す。
埋もれた詩人を発掘し、クラブでイベントを開いて詩を売り出したのである。
本の装丁にも懲って、書物というよりはそれ自体がアート作品のような本をつくった。
斬新なこのビジネス手法は大当たりし、出版社は上場。彼らは、若き成功者となったのである。

その彼らが、次に目をつけたのは「クールな」インターネットビジネスだった。
アメリカで大ブームの「ドットコム」ブームを見た彼らは、欧州にもインターネット時代が来ると予感。(これは当たり)
そこで、ファッションとスポーツを欧州各国語で自由に買い物し、アマゾンも真っ青なスピーディな配送網をつくった。
サイト内は当時最先端の3D(立体)画像で、商品を自由に色々な角度で見た上に、マネキンに試着させることもできた。
miss BOOというキャラクターがサイト内に作れらていて、彼女が買い物の案内人まで務めてくれるという斬新さだった。
「これはイケる!」
彼らはすでに株式上場の実績がある。その上、若くてセンスがある。
インターネットという新しい市場で大成功するだろうとふんだ投資銀行JPモルガンベンチャーキャピタル、アラブの石油大富豪までが続々と投資。
かくて、スタートアップとしては記録的な資金を集めることに成功する。

しかし、彼らの斬新なウェブサイトは、そのあまりに大規模で複雑な構造のため、砂地のように資金を吸い込むばかりでいっこうに完成しなかった。
彼らは、なんどもスタート時期を遅延させる。
ようやくスタートした時は、すでに資金的には危機を迎えていた。
なんどか追加出資を募集したものの、焼け石に水だった。
おそろしいバーンレート(燃焼率=資金損耗率)を記録しながら、彼らのBOO.COMは破産した。

評価は☆。
事業システム開発の経験者であれば、不幸なことに、彼らの陥った事態を理解できる人間は少なくないと思う。

システムは、稼働を始めるまでは、ひたすらコストを食うだけの存在である。
その上、システムの構想が大きく、高機能であればあるほど、そのリスクは高くなる。
完成が遠のく上に、コストはたちまち数倍になってしまうのだ。

私も、つい最近(そして、今も!)そんな目に遭って、死にそうになっているわけだ(泣)。
それでも、どうしてシステム開発に挑んでしまうのか?
ようは、うまくいったときのリターンが、あまりに魅力的すぎるからである。
その欲望ゆえに、人はわれを見失ってしまい「もう少し頑張れば、もうちょっと耐えればなんとかなる」と思う。
なあに、実際には、なんともならないわけである。。。

たぶん、本書には、ある重大な部分が欠けている。
それは、「人は、いかに失敗から立ち直るべきか」というテーマである。
株式上場した、ひとにはできないことがやれたんだからいいじゃないか、といって済ますわけにはいかない。
困ったことに、それでも人生には「続き」があるわけだから。
映画「シェーン」でラストに「シェーン、カムバック!」と叫んでもシェーンは帰ってこない。かっこよく去っていく。
だけど、ねえ。本当は、シェーンがいなくなってからの生活のほうが、よほど大変なわけなんだよねえ。。。