Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

下流志向

下流志向」内田樹

この人の本は大概面白いのだけれども、この本は無類に面白いと言っていいんではなかろうか?
ベストセラーになったのも、むべなるかな、である。

最近の子供たちが勉強しなくなったとか学級崩壊とか言われるが、それはなぜか?
それに対して、著者が見事な仮説を示したのが本書である。
あっさりと種明かしをしていまうと、それは子供たちが「取引」をしているからだ、というのである。

しからば、その「取引」とは何か?
著者は、その典型として「その勉強をしたら何の役に立つの?」という問いをあげる。
役に立つなら勉強する、でなければしない。そこには、勉強という労力に対する「等価交換」を求める消費者の視座があるではないか、というのがその指摘である。
目からうろこであった。

そもそも、勉強というやつは、役にたつかどうかわからんので、わからんから勉強するわけである。わかるようになるために。
で、それを「役にたたん」という判断は、つまり、それまでに自分の見識で100%ということを意味する。その他の考え方はカンケーネー、というわけである。
俺様化、ということである。
ひどいのは10歳未満、せいぜい10数年程度の経験で、わかってたまるかこんちくしょー、というのが普通だと思うが、今の子供はそうではない。
一生懸命やっても役に立たないかもしれない、それなら一生懸命やると「損」である。なので、全力を傾注してさぼるわけである。
そうすれば、損が少ないではないか、ということである。

ニートも同様である。
一生懸命労働して、しかし、それに見合わないものしか手に入らない。わずかの賃金で上役にへつらい、客の機嫌をとるくらいなら、働かないほうが得ではないか!
彼らは、そういう意味で、きわめて合理的に行動しているに過ぎないではないか、というのである。

人気テレビ番組に「はじめてのお使い」というのがあった。
子供が社会と本格的に接するのが、お金をもって買い物をすることになったのである。
昔は、家事の手伝いや子守をしながら、少しづつ周りの承認を得ていったわけだ。
しかし、今では「お金」をもっていけば、誰でもすぐにその金額さえ足りていれば「一人前の客」になってしまう。
消費者は、消費した瞬間に完成している。生産者は、なかなかそうではない。すぐれたものをつくらなければいけないから。
私たちの社会は、とうとう、「国民」ではなくて「消費者」の集まりになったのだ。

評価は☆☆。
すごく面白いし、考えさせられる本である。

先日、ついにヒッグス粒子を発見したようだ、というビッグニュースが流れた。
重力理論と宇宙の開闢を説明づける重要な発見であり、そもそもどうして物質が存在するのか、という問いに答えを導く重要な実験結果である。
そのニュースを聞いた人がこういった。
「あのー。さっぱりわからないんですけど、この発見が、私たちの生活にどんな役に立つんでしょうか?」
おいおい、それを言ったら、私たちの生活は、仮に天動説のままでも、大した変化がないかもしれないよ、と思った。
どんな役に立つかどうかわからないから研究なので、わかっていたら「開発」というんだよ、と言いたかったが、まあ、やめにしておいた。
そんなことで目くじら立てるのは「損」なので、やめておいたわけだ。
つまり、私も下流志向なんである。