Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ブルー・ヘブン

「ブルー・ヘブン」C.J.ボックス。

前回に読んだ「沈黙の森」が面白かったので、同じ著者の作品を入手。

舞台はアイダホ州
釣りに出かけた姉弟が、森の中で殺人事件の現場を偶然目撃する。
男5人のうち、突然1人が、ほかの4人と口論したかと思うと、ピストルでパンパンと撃たれたのだ。
姉弟は、男達に見つかってしまうが、なんとか身を隠して逃走する。
行き付いた先は、離婚したやもめ暮らしの初老の男、ジェス・ロウリンズが営むランチ(牧場)だった。
老カウボーイは、納屋で疲れて寝ていた姉弟を発見、保護する。
事情を姉弟から聞いたジェスは、ことの次第を確認するため、姉弟の家や保安官事務所に向かう。

この事件は大きくなっており、姉弟はどこかに誘拐されたのではないか、ということになっている。
そして、撃たれた男の消息は発見されていない。
保安官事務所には、ボランティアの退職警官が詰めかけており、彼らがマスコミをシャットアウトしている。
その人相は、姉弟が描いたものとそっくりだった。
保安官は、突然の大事件におろおろとして、解決能力を持たない。ついにFBIを要請するが、その決意をするのに1両日かかる有様だった。

一方、ジェスは、街中で情報収集するうちに、姉弟の訴える事件が真実であることに確信を深める。
そこに、退職した老刑事が、数年前の銀行強盗事件を調べに来る。
なぜか、この町に引っ越してきた5人の元ロサンゼルス市警の警官たちが、そろって銀行強盗事件の現場にいた。
ジェスの友人の銀行家も悩んでいた。
かれらの口座を開いたのは彼だが、その金のうごきは、間違いなくマネーロンダリングを示しているのだ。

やがて、ジェス、老刑事、銀行家はジェスのランチに集合する。
元ロサンゼルス市警の4人のボランティア警官もやってくる。
姉弟を殺して、事件の抹殺を図ろうとする腐った警官たちに、ジェスは愛用のウィンチェスターを持って立ち向かう。
果たして、彼らの運命は。。。

読みだしたら止まらない。
舞台を現代に据えているが、これこそまさしくマカロニウェスタンそのものではないか。
体制をバックにした、圧倒的な「悪」に対し、朴訥なカウボーイは鉄の意志と愛用の古いウィンチェスターで立ち向かう、というわけだ。
ワクワクしないわけがあるまい。

前作の「沈黙の森」もそうだが、主人公は、最後に銃で解決を図る。
それは、銃がすべて、ということではない。
まさに、ギリギリまで主人公は己の体力と知力、精神力で立ち向かうのだが、相手は非道なのである。
命を奪いにくるのだ。
そこで、ついに、老カウボーイは銃をとる。

こういうときには、絶対に銃は古いウィンチェスターじゃないといけない。
ショットガンは、銃に不慣れなほかのメンバーが使うものである。
正義を背負って戦う主人公はウィンチェスターを使うというのは、この種の物語のお約束なのだ。
日本でもチャンバラ映画の主人公は、やっぱり村正を使っちゃまずいし、ましてや火縄銃もまずい。
そういう伝統があるのである。

アメリカは銃社会でとんでもない、と思っている方は多いと思うし、私もそう思う。
ただ、彼らにはカウボーイの伝統があるのである。
自然の中で、ちょっと油断するとクマがでて、晩飯も銃が頼みで、家族をすぐにさらいにくるような荒くれ者が多い土地で、ウィンチェスターで生きてきた伝統がある。
すると、これは文化になってしまう。文化になると、容易に改廃できかねるわけである。
とはいえ、実際には粗悪なサタデーナイト・スペシャルのような東南アジア製の銃が、より多くの悲劇を起こしているわけだが。。。

面白いが、一方で、アメリカのノスタルジーを感じさせてくれる小説である。