Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義

藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義」藤巻健史

一部では、その為替予想のはずれっぷりから「はずれ藤巻」なる罵倒語すらあるという藤巻氏の著書。
しかし、藤巻氏は、もともとは現場バリバリの凄腕トレーダーだったのであり、その金融市場に関する知識は相当なものである。
本書は、社会人および大学生向けに、藤巻氏が金融について特別講義を行ったテキストの抄録に加筆したもののようである。
いわゆる「入門本」であるが、これは素晴らしい教科書だ。
おかげで、どうやら日経新聞の金融欄を読めるようになる程度の知識は身に着けることができる。

ヘッジファンドだ、FXだ、オプションだスワップだとデリバティブ関連の用語が飛び交うと、どうしても門外漢は「アヤシイ取引をして錬金術を行うイカガワシイ奴輩」として金融屋さんを見るようになる。
リーマンショックのあと、米国発のサブプライムローン問題が発覚した後なんかすごかった。
なにしろ、ネタは「反米」だから、こんなにおいしい話はない(反米はサヨク、極右の両方に受けるキーワードだもん)
アメリカが金融詐欺同然の話で世界を不況に陥れた、とんでもない」
とみんな憤っておったのである。
しかし、リスク評価をして、そのヘッジとして優良債権とセットにして売るなどは金融としてはごく当たり前の処置である。
さらに、その資金を長期で手当てするか、短期で調達するか、さらにその交換(スワップ)がどうして起こるのかなど、実に懇切丁寧に書かれている。
理解できれば、これら金融取引において、透明性の確保は大事だけど、手法そのものには特に疑義がないことは明白になってしまう。
なるほど、よく考えたもんだなあ、と関心することしきり。

評価は☆☆。
生きている限り、金融と無関係であることはできない。
しかし、日本では、義務教育で金融知識は教わらない。ゼロである。なんと、複利計算の方法すら教えない。
おかげで、住宅ローンを組んだり、生命保険の契約の利率で、すべて金融マンの言うままに契約されている方も多いのではないだろうか。
これでは、愚民政策と言われても仕方がないではないか。
結果「わからないから」といって、みんなが余剰資金を郵便貯金にしてしまう。
おかげで、資金運用に関心のない大量の資金をかかえた郵貯特別会計にじゃぶじゃぶ資金を流し込み、なにが起きたか、ご存じのとおりだ。
今は、市中銀行普通預金で、まったく同じことが起こっている。ゼロに等しい金利で、しかし、それでも国債を買えば銀行は儲かる。
リスクはゼロ。よって、政府はじゃんじゃん国債を発行し、かくのごとくなった。
こんな有様になったのは、ただ漫然と余剰資金を預金している国民の金融リテラシーにも問題があるのであって、アメリカのサブプライムローンを大所高所から批判してどうという問題ではない。
知は力なり。
日本の郵貯アメリカに差し出されるなどという戯言につきあう前に、ちゃんと勉強すべきだと実感する次第。
ちなみに、本書は再読、三読に耐える。まさに教科書である。

ところで。その「はずれ藤巻」だが(苦笑)。
日本経済の実力および政府負債の残高から考えて、日本はいずれハイパーインフレにするしか解決策はなく、国債の入札未達から「今回だけはハイパーインフレにならない」と政府は言い訳して、日銀の直接引き受けをやるだろう、というのが藤巻予想である。
その結果、日本はハイパーインフレになり、政府の借金は雲散霧消するが、かわりに国民生活はどん底におちる。
円は暴落。’(ただし、その結果、輸出産業は復活するだろうが)
これが「来る、来る」といいつつ、この何年、一向に当たらないではないか、というのが藤巻批判の骨子である。

まさに、その通りと言わなければならない。
為替は、あくまで相対的なもの(高い、安い)だから、日本円がダメダメでも、ドルやユーロが「もっとダメ」なら、円は高いままである(苦笑)。
なので、日本円としては「ドルやユーロよりも、さらにダメ」というしかない。
そこまでダメかというと、今の日本は世界最大の債権国で、そうでないのである。
国内は火の車だが、対外的にはとても強いのだ。
この齟齬こそが、日本の先行きをギリギリまで引っ張っている要因である。(崩壊したときの衝撃が大きくなるから、小幅に崩れるほうがいいんだけど)
さて、いつ「藤巻予想」が当たるか?
私は、どうも、しばらく当たらないような気がする。
誰も金を貸してくれない貧乏人が、借金の額を増やすのは難しい。借金額が増えないから、生活が立ち直ったかというと、そうではなくて、さらに苦しい場合がある。
そんなことになりはしないか、と心配してしまうのですなあ。