Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

データで検証!地球資源のウソ・ホント

「データで検証!地球資源のウソ・ホント」井田徹治。副題は「エネルギー、食糧から水資源まで」講談社ブルーバックス

昨日で3.11から2年経った。いまだに30万人を超える人々が仮設住宅に暮らしておられることを考えると、心が痛む。
住宅ローンに追われて四苦八苦する生活も、二重ローンを払いつつ仮設住まいをせざるを得ない人々のことを思えば、文句をいえないだろう。

仮設住宅避難を生んでいる大きな要因に、原発事故があるのは周知の通りである。
とりあえず冷温停止状態ということになってはいるものの、汚染水は増え続けているし、メルトダウンした燃料を処分して廃炉にできるのはいったいいつになるやら、皆目見当がつかない。
正直なところ、齢50に近い私がその最終処理を見届けるのは無理なはずである。

その原発であるが、再稼働云々の議論はもはや科学のレベルを通り越し、なにやら宗教的情熱をともなった政治活動になっているように思われる。
いつのまにやら、右翼=再稼働推進、左翼=再稼働反対という図式ができた。
これは不思議な話であって、まず産土信仰を基礎におきながら人類の英知の限界を主張する伝統的保守主義であれば、当然に「脱原発」でなければならないし、逆に「知識による進歩主義」を肯定する左翼であれば、当然に原発推進しなければならない。
現に、かつて共産党は核の平和利用については、前向きであった。今や、左右の主張が逆であろう。
人類の英知を信じる保守主義(とんでもない矛盾)、アニミズム的自然信仰をかかげる進歩主義(はらいてー)。世界の珍百景である。

で、そういうときは講談社ブルーバックスに限る。もっともイデオロギーに遠い新書はこれであろう。
本書の刊行は2001年で、もちろん3.11より10年前だ。
本書の趣向は、地球資源があと何年持つのか、それによって私たちの未来はどうなるのか、科学的データに基づいて冷静に考察するところにある。
で、結論からいえば。
次世代エネルギーの本命は天然ガスである、となる。在来型ガス田は140年くらいあり、さらに非在来型を加えれば、200年を超える。
現在、話題のシェールガスも非在来型ガスである。本書の先見性は明らかであろう。
しかも、ガスは熱効率が高く、石油よりもはるかにCO2が少ない。どう考えても本命となる。

石油は、あと40年だとなっているが、いつまでたっても「あと40年」なのも事実である。
これは、石油発掘技術が進むとともに、石油価格が上がることで、今まで採算が取れなかった油田も採掘可能になるせいである。
それでも、石油はやがてピークアウトしていき、徐々に天然ガス中心の社会に変わるであろう。

石炭は、1000年以上持つ。しかも、資源が偏在していない。ただし、環境問題や効率も悪い。とはいえ、これだけあれば、捨てられないわけである。

原子力は、すでに2001年の時点で世界的に見れば停滞した資源である。原子力に傾斜しているのは、日本とフランスくらいしかない。
核融合炉を中心とした核燃料サイクルの実現は難しい上に、高レベル核廃棄物の処分問題が解決できないからである、と書かれている。よって、副次的なエネルギーにとどまる、と。
稼働を始めた原子炉は、非常に低コストで運転可能なので、今の炉を使いつつ、老朽化した炉から順に廃炉にして徐々に原発依存率を減らすことになるだろう、と予測している。
最終的にトータルコストで天然ガスに勝てない、と冷静に指摘があるが、これはアメリカのGEが昨年出した結論と同じ。

風力や太陽光、バイオマスといった再生可能エネルギーについては、不安定なので、主役になるのは難しい、としている。
欧州で風力が成功を収めている例はあるのだが、それは気候が向いていたからである。日本で、同じ条件があるかと考えると厳しい。
ただ、長期的には、低コストだから徐々に技術革新されて伸びるだろう、程度の予想である。

エネルギー以外の資源としては、食料、水、木材、金属などに言及している。
これらの議論も興味深い。

評価は☆☆。
データ検証した上での科学的議論として、一読して損はない。
わけのわからん宗教的な議論にアキアキしたひとにおすすめ(笑)。

水の話をすると、実は、日本は水が豊富というイメージがあるが、そうでもないことがわかる。
降水量は平均的で、国土が狭くて、川が急峻なので、すぐに海に流れ出てしまう。
だから、一人あたりの水は多くないのである。
ところが、その日本では、あまり水不足を感じない。これは、国土の7割が山林だからである。
山の木々が「緑のダム」として、保水してくれる。だから河が枯れないので、水に困らないのである。
その日本は、山林資源をまったく活用せずに、海外から大量に木材を輸入する。
そのため、海外から批判を受けている。この構図は、今も変わらない。
なにしろ、国内で伐採するより、海外から輸入したほうが、安く木材が手に入るからである。
食糧輸入もそうだが、間接的に、日本は大量の水を輸入している。
日本の水資源林が外資のターゲットになるのは、この状況であるから、将来的に金になると彼らが読んでいるからだ。

国土や山林は、日本人共通の大切な資源である。
活用と保護を、うまく考えていかなくてはならないはずである。
原発で揉めている場合ではない。
10年前のブルーバックスは、そう教えてくれているようである。