Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ヒラムの儀式

「ヒラムの儀式」エリック・ジャコメッティ、ジャック・ラヴェンヌ。

ヒラムというのは、かのフリーメーソン創始者である。偉大な親方と呼ばれた石工であった。
彼は、弟子たちの裏切りにあって死ぬ。そのとき、石工のかなづちで、まず腰を打たれ、つづいて胴を打たれ、最後に頭を打たれて絶命した。
本書は、それと同じやり方で殺されたフリーメイソン会員が連続して現れる連続殺人事件であり、その犯人を追う展開になっている。
その犯人を追うフランス人警視もフリーメイソン会員である。
犯人は、トゥーレと名乗る元ナチSS隊員の老人である。
かのヒトラーが、ナチスドイツを組織したとき、その母体になっていたのがオカルトで人種差別主義者の団体トゥーレ教会であった。
そのトゥーレの残党が生きていて、いまだにしつこくフリーメーソンを狙っているのだが、その目的は彼らが入手した石版である。
フリーメーソンの石版は、キリスト教の初期の証言が書かれていると見られている。
本書の中では、その内容に関して明らかにされることはないのだが、要するに死海文書の証拠、つまりユダヤ教のなかでエッセネ派という異端の小集団があり、その小集団の中の変わり者がイエスだったという話なのである。
そうすると、これはキリスト教にとってはとても都合が悪いし、キリスト教と対立するイスラム教にとっては良い面もあるのだが、それによってイスラエルユダヤ教が勢いづくのは困るという三すくみ的な構図になる。
本書は、トゥーレ教会残党とフリーメーソンの抗争を描きながら、その一方で宗教対立、人種差別、イスラエル問題などをあぶりだす、みたいな狙いもあるだろう。

しかし、この物語は、とにかくめまぐるしく登場人物が登場して、それぞれが偽名を使ったりしており、読んでいくとようやく秘密がわかるといった塩梅で、なかなか大変だ。
いかにもフランス人好みなバターたっぷり、こってりの作品である。

評価はナシ。

実際に、ナチスやトゥーレに関する知識がない人が、この物語を読み進めるのは相当に困難だろうと思う。
フリーメーソンに関する薀蓄本として読めばいいのかもしれないけど、、、どうなんだろう?
あまりお勧めできないなあ。

本書の中で、登場人物が1ドル紙幣を取り出し、有名な「フリーメーソンの目」と呼ばれるピラミッドの中の目を見ながら「これがあるおかげで、世界の一部の人たちは、私たちが人類を支配する力があると信じている」と独白する場面がある。
フリーメーソンの力の源泉は、この誤解(というか伝説)と、人脈なのである。
それは、本書中で書かれているとおりである。
決してフリーメーソンユダヤ金融資本主義と結託して、世界を支配するような話にはならないのであるが(苦笑)しかし、フリーメーソン会員同士(しかも、同じ団でないといけない。フリーメーソンにはたくさんの団がある)であれば、支部で顔を合わせる機会も多い。
すると、ビジネス上のときでも、気軽に会える。だから成功しやすく、出世も早いというわけだ。
日本でも、創○学○とかあるではないか。あれと一緒である。
宗教が現世利益とからむとき、最大の武器は人脈なのである。

よって、メーソン陰謀論者の満足するような本にはならないのであって、残念でした(苦笑)
フランスにおけるメーソンのありさまを感じるには、よいのかもしれない。
個人的には、宗教はあの世で役に立つほうが良いと思うのである。
この世のことは、この世でなるべく片づけておきたいもんだと思うのですがねえ。