Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

デッドリミット

「デッドリミット」ランキン・デイヴィス。文春文庫(絶版)。

現代の英国が舞台。
英国首相の兄は法務総裁だが、その兄がテロリストに誘拐される。
彼らの要求は、裁判中の女性博士を無罪放免にすること。
彼女は、ある企業を襲撃したテログループの主犯として、警備員を射殺するところがカメラに記録されており、殺人の罪で起訴されている。

首相は、本件に関して指揮権を放棄し、他の閣僚の合議にゆだねることに決める。
一方で「テロの要求には屈しない」として、犯人たちの要求を受け入れることを拒否しつつ、交渉しようとする。
犯人グループは、法務総裁にリモコン付のが爆薬が入ったベストを着せて脅迫を続ける。

一方、女性博士の裁判は、陪審員たちが評決に達しないまま、討議がつづく。
陪審リーダーは、これは疑いの余地がなく有罪であるとしており、最初はその意見が優勢だった。
しかし、これに納得しない陪審員が出て、対立する。
討議を続けるうちに、靴屋の経験がある陪審員が「カメラに写っている犯人の靴のサイズと、被告の靴のサイズが違う」と指摘。
この陪審員は、誰の靴でも一目見れば正確なサイズを当てる特技の持ち主だった。

誘拐された法務総裁はテロリストの目的を探ろうと話す。
そこで、女性博士は、ある大企業農薬メーカーの毒性が蓄積されて世界に拡大している事態を訴えようとしていたことを知る。
これに共鳴した彼は、実はチェルノブイリの清掃人の生き残りだった。
彼は、がんで余命いくばくもないのだ。

やがて、陪審裁判は、ついに評決に達する。結論は無罪であった。
テロリストは、その結果を見届けて、法務総裁を解放し、自ら死を選ぶ。。。

著者は寡作で、本作くらいしか知られていない。
しかし、この作品は面白い。

何よりも読み物は、陪審員たちの有罪、無罪をめぐる論争である。
12人の陪審員たちは、評決に達するまで協議を続けなくてはならない。
その場合、単純多数決でなく、全員一致ないしは最低10対2まで一致しなくてはならない。
なぜか有罪論に傾く陪審長と無罪を主張する陪審員の心理戦がすさまじい。
そして、12人の陪審員は、それぞれ自分がなぜ有罪と考えるのか、あるいは無罪と考えるのか、または迷っているのか?一人づつ、順に意見を述べるのである。
その意見を聞いて、他の陪審員が意見を変えたかどうかで、逐次、評決がとられてゆく。
最初は少数だった無罪派が、じりじりと増えていくありさまは圧巻である。

名画の「12人の怒れる男」を思い出す。
徹底的な討議により、少しづつ事実が暴かれていく。

評価は☆☆。
相当おもしろい。
なんで絶版なんだろ?
こんな本が売れないというのも、なんだか悲しいことではあるなあ。

ところで、裁判員制度というのある。
なかには「強制労働だ」と批判する人もいるようであるが。
しかし、裁判官だから、正しい判断をするというものでもあるまい。ふつうに、トンデモ判決は存在するわけだしね(苦笑)
いわゆる、普通の国民の「常識」というやつを、判決に反映するのは、意味があることだろうと考えている。

そのうち、日本でも、すごく面白い裁判員小説の傑作が現れるかもしれない。
不謹慎かもしれないが、ついつい期待してしまうのでありますねえ。