Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

死よ光よ

「死よ光よ」デヴィッド・グターソン。

主人公は60歳を超えた老医師ベン。
自身が優秀な心臓外科医であったベンは、自分の病気、結腸癌がどのような経過をたどるか、よく知っている。
友人の医師による余命9カ月の宣告を受けたベンは、かつての自分が考えていたようには死を受容できないことを知る。
癌による苦しみは、最後の日々を過ごす意義を疑わせるに充分だと知っているベンは、好きな山野に行き、愛用のウィンチェスターを使って暴発事故に見せかけた自殺をしようと考える。
事故死にみせかけるため、多くの荷物を持ち、愛犬2頭を連れて狩猟にでかけたベンは、峠で自動車自損事故を起こす。
そこに通りがかったカップルに助けられ、ヒッチハイクで近くのドライブインに行く。
そこで娘に電話をかけて、さらに自殺のための旅をつづける。
いつしか、他人の私有地に入り込んでしまい、そこで猟犬の群れに襲われ、愛犬のうち1匹は死に、もう一匹も負傷する。
ベンは、やむなく自分の犬を助けるため発砲するが、そこを地主に発見され、ウィンチェスターを取られてしまう。
なんとか近くの動物医院にたどり着いたベンは、優秀な女性獣医に犬を助けてもらい、そのまま、バスに乗る。
死に場所を求めてのことだったが、たどり着いた小さな村では、少女が初のお産で死にかけていた。
医者としてベンは少女を救う。
医者のうわさを聞きつけた彼のところへ、また村人がやってくる。
最後に、彼は親切な村人の婦人の自動車に乗せてもらい、犬を迎えにいき、ふたたび家に帰る。
いつしか、彼は、愛おしい残りの生を生きる気持ちになっていたのだった。

しみじみとした自然描写。
ときどき挿入される、ベンの過去の回想は、少年時代であり、死別した妻との出会いであり、召集された第二次大戦である。
そして、戦友が傷つき、死が迫っているとき、開胸をして直接心臓マッサージを行って、死の淵から戦友を呼び戻した軍医。
その奇跡の体験が、彼に「医者になろうと思う」と決意をさせた。

評価は☆☆。
ベンの経験は、また、読者の誰が持つ経験でもあろう。
子ども時代を経て、思春期を迎え、やがて職業につくきっかけがある。
あらかじめ、そう決まっていたわけでもないが、神は仕事を準備してくれている。
そして人は老い、あるいは死別する。
その終焉のときが、理想通りとは、まったく限らないのであるが、しかし、それも、この愛おしい生の一部なのである。
苦痛から逃げることは、悪ではない。

最後に、ベンを自宅まで送り届ける婦人が言う。
この苦痛にみちた最後が怖い、というベンに対して、婦人は言う。
あなたの、その最後を見せることは、あなたの子供や孫にとって、良いことだと思う、と。

人は、その親が生きていることで、死を考えなくても済む。
親が亡くなると、人はおのずと気づくのである。次は、自分の番だと。
人ばかりでない。
飼っていた犬や猫、小鳥だって、最後に自らの死をもって、この世界の生の素晴らしさと儚さを、伝えようとする。
彼らに注いだ愛が深ければ、彼らが最後に与えてくれるものは深い。

この世は、奇跡に満ちている。