Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

解錠師

「解錠師」スティーブ・ハミルトン。

毎年恒例「このミス」2013年、海外ミステリー1位。
その名誉に恥じない面白き小説。

主人公のマイクルは、17歳の少年である。
父母はある事件があって、いない。伯父に育てられた。
彼は、父母がいなくなった事件のショックから、口がきけなくなった。「奇跡の少年」と言われた彼から、言葉は失われた。
その彼が得意なことは2つ。ひとつは、絵を描くこと。そしてもう一つが、ピッキングである。
手作りの道具をつかって、古道具屋から買ってきた錠前を開ける喜びを、彼は知った。
その特技をしったクラスメートが、卒業パーティの余興として、とんでもないイタズラを思いつく。
フットボールのライバル校の選手の家に忍び込み、自分たちの学校の旗を枕元に飾ってやろうというのである。
そこで、まんまとライバル選手の家に忍び込んだ彼らだが、そこで興奮した生徒の一人が、水槽をひかき棒で壊して、暴れ始める。
そこに家の主人が帰宅。ほかの3人は逃げ出すが、マイクルは捕まる。
初犯のマイクルの刑は、その家で半年間の奉仕をすることだった。
マイクルは、その家の娘と恋仲になるのだが、そのために、思わぬ難題に巻き込まれてしまう。
家の主人は莫大な借金を背負っており、このままだと一家離散だというのである。
主人に金を貸し付けたギャングたちは、マイクルの「特技」だけが主人を救う唯一の方法だという。
そして、娘の無事と引き換えに、マイクルは通称「ゴースト」のもとに弟子入りする。
マイクルは「芸術家」、金庫破りになったのだった。

先天的に限られた鋭敏な感覚を持つ人間だけが、金庫のダイヤルを動かしたときの微妙な感触の違い。接触域を感知して、金庫のダイヤルをやぶることができるのである。
マイクルは、ゴーストから5つのポケットベルを持たされる。
このポケットベルが鳴ったときが、マイクルの「仕事」のときである。
犯罪現場に赴き、そこで金庫を開けて、分け前をもらう。

最後の仕事で、マイクルは、仲間内の裏切りに巻き込まれ、ついにFBI捜査官に救助を求める。
マイクルは、牢に入れられた。しかし、それはある意味で、彼の救いになっている。

評価は☆☆。
冒頭述べたが、実に面白い小説である。
マイクルが心を閉ざしたこと、それと錠前破りとの関係。
そして、その心を、恋が溶かしていく有様がみずみずしく描かれている。

何よりも、肝心の錠前破りの過程の描写が素晴らしい。
ピッキングと、何よりも金庫の開錠の様子を、これほど精密に描いた小説は例がないのではないか。
3刻みにダイヤルを回し、微妙な接触域の変化を探るマイクル。あるかないか、高級な金庫になればなるほど分からない。
それほど幽かな手ごたえを頼りに、ロック板の枚数を数え、当たりの数字を探していく様子は、まさに息詰まるものだ。
と同時に、恋のために犯罪に手を染めていくマイクルは哀れでもある。
どうして人は犯罪者に落ちていくのか?その経過も、非常に丹念に描かれている。

まずは一読、ぜったいに損のない小説。
こういう小説は、悲しいが日本人作家には描けないねえ。うーん。